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『剣遊記Z』

第四章 悪霊大決戦!

     (8)

 美奈子を本気にさせた下手人――悪霊取蜂は彼女の体から離れたあと、庭園の上をふわふわと浮遊しながら、孝治たちを見下ろす態度に出てきた。

 

 霊体に直接太陽光線が当たり、まぶしそうに目を細めてもいた。だがやはり、太陽だけでは滅んでくれそうになかった。それどころか取蜂の目は怒りが充満しているらしく、真っ赤に発光していた。今の時刻が日中にも関わらず。

 

『うおのれーーっ! ようもわしを白日の下に晒してくれよったのぉーーっ!』

 

「しゃあーーしぃーーったぁい!」

 

 孝治も負けずに剣を構えた。

 

「仮にも男んくせして女性ば痛ぶる真似しくさってくさぁ! おれはこの世の中のどげな悪人の中でも、女性ばいじめる野郎が特にいっちゃん好かんのやけねぇーーっ!」

 

 もはや剣技が霊に有効かなど、完全に度外視。孝治は霊体に向かって斬りつけた。だからそれなりに修練したはずの剣技の『いろは』も無視。ただメチャクチャに取蜂へ向け、剣を振り回した。

 

『ふん! 小娘の分際で、本気でわしを斬るつもりけ☠ いらうこともできんけのー☠』

 

 取蜂がそんな孝治を、鼻でせせら笑ってくれた。その余裕で剣を避けようともせず、ふわふわと周辺を飛び回るばかり。孝治のあまりの無鉄砲ぶりに、涼子はハラハラドキドキで、瞳を当てられない様子でいた。

 

『孝治っ! 駄目っちゃよ、そげなんじゃ!』

 

「でも、悪霊かて弱ってきようみたいっちゃよ☞」

 

 涼子の左隣りにいる友美も、瞳を凝らして孝治の激闘を見つめていた。涼子はすぐ、友美に尋ねた。

 

『ええっ! どげんしてぇ?』

 

 友美は孝治と取蜂に視線を向けたまま、涼子に答えた。

 

「だってあいつ、孝治にいっちょも取り憑こうっちせんのやけ☛」

 

『あっ……そげん言うたらそうっちゃねぇ♋』

 

 涼子はふと、空を見上げた。真昼のカンカン照りである快晴の青空を。

 

 友美が涼子への返事を続ける。

 

「たぶん……っち思うっちゃけどぉ……太陽のせいであいつの霊力が弱まっとううえに、孝治が追い回すもんやけ、取蜂も取り憑くチャンスがなかっちゃろうねぇ☻ つまりあいつはあいつなりで追い詰められよんやね♐」

 

『そげんことっちゃねぇ〜〜♠』

 

 友美の新たな推測に、涼子も納得の顔となった。しかし、実際に追い詰めたまではけっこう。だがこの先、いったいどうやって決着をつけたらよいものやら。これだけはふたりの考えを持ってしても、そう簡単に結論が出そうにはなかった。

 

 このままでは孝治のほうが先に疲れ果て、取蜂有利となってしまうかも。なにしろ基本的に、霊は疲れ知らずなわけだから。

 

 だが次の瞬間!

 

「うわっち!」

 

 突如空中に浮かぶ取蜂の霊体を、火の玉が高速で貫通した。

 

 美奈子が悪霊を狙って、火炎弾を放ったのだ。

 

 孝治に警告もなにも言わないで。


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