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『剣遊記Z』

第四章 悪霊大決戦!

     (5)

「こ、こんな馬鹿んこつがあるかぁーーっ! わしが乗っ取っとるのに、この女が目覚めたとでも言うとけぇーーっ!」

 

「いったいどげんなっとうとや?」

 

 孝治の瞳にこの光景は、まるでひとつの体の中で、相反{あいはん}するふたつの意識が戦っているかのように見えていた。

 

「や、やめえ! この体はわしがもらったけんのー! やめまへん! うちの体を返してもらいますえーー!」

 

 ついにひとつの口から、異なるふたつの人格が飛び出す事態へと発展。

 

「こ、これってぇ……ほんなこつどげんなるとやろっか? まさか、美奈子さんの意識が目覚めたみたいっちゃねぇ……♐」

 

 友美も頭をひねる仕草で、事態の行く末をジッと見守っていた。そんな友美と孝治に、涼子が神妙な面持ちで解説してくれた。

 

『さあ……あたしにもようわからんちゃけど……なんせ憑依されとうほうの人格が憑依されたまんまで目覚めるなんち、あたしも聞いたことなかっちゃけ✍ でも、あたしん考えやとこげな場合、体の本当の持ち主んほうが勝つんやなかっちゃろっか? なんつっても、本当の持ち主んほうが、体との繋がりが強いんやけ✌ たぶん美奈子さん、金のブレスレットば見て、意識が目覚めたっち思うばい♋』

 

「なるほどぉ……動物の縄張り争いとおんなじで、大抵元からの縄張りの主{ぬし}んほうが勝つってのとおんなじことやね☆ これに美奈子さんのお宝への執着心もあったっちゅうわけっちゃね☻」

 

 孝治も解説に、自分なりの推測を付け加えた。このあと涼子がこっそりと、まるで自分自身を諌めるような独り言をつぶやいていた。もちろん孝治には丸聞こえだった。

 

『あたしも人に乗り移るときは、そこんとこ気ぃつけよっと☻』

 

 それはとにかく、孝治は悪霊の力を遥かに上回る美奈子のお宝への執念に、むしろ恐れおののく気持ちを抱き始めていた。

 

 さらにあどけない泣き顔😭で美奈子を説得(?)した千夏も凄いが、それになんの疑問もなく協力した中原と、積極的に作戦を推したであろう千秋も、もっと不可思議な連中だと実感した。

 

「おれっち……ドエラか仲間ばもったもんちゃねぇ……♋」

 

 そのドエラか仲間である千秋は、今も千夏と師匠をジッと見つめたまま。中原は事態の急展開に、一切我関せず。ただ無心な感じで絵を描き続けていた。

 

 遠目から覗けば、なにやら人物画を描いているようだが。

 

「あれ? そん人……なんかどっかで見たような……☁」

 

 孝治の頭の上で、『?』が三個旋回した。もっとも、見たような記憶がおぼろげにあるだけなのだ。もともと忘却力が強いと我ながら自覚している孝治に、モデルの人物など、わかろうはずはなかった。


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