『剣遊記Z』 第四章 悪霊大決戦! (2) 最悪の事態を、待つこと数刻。孝治は無意識に、ふたつのまぶたを閉じていた。しかし、状況には一向の変化もなし。周囲で燃え上がる草木の、パチパチと鳴り響く音が聞こえるだけだった。
「うわっち?」
いい加減にジレてしまい、孝治は瞳を開いて美奈子に顔を向けた。彼女は塀の上で、全裸のまま立ち尽くしているだけでいた。
『やっぱし……っちゃねぇ☛』
そばでつぶやいた者は涼子であった。
「なんが『やっぱし……』ね♨」
「そうばい♨ 言いようだけやったら、こっちはなんもわからんのやけね♨」
孝治と友美は小声で――ついでに文句混じりで尋ねてみた。すると涼子が中原と千秋と千夏には聞こえないよう(もともと聞こえないが)、こっそりと耳打ちでふたりに話してくれた。
『孝治も友美ちゃんも、ずっと前にあたしが言うたこつ、覚えちょうね? 霊が人に乗り移ると、そん人の意識は眠っちょうのとおんなじになるってこと✍』
もちろん孝治は、綺麗さっぱり忘れていた。
「……そ、そげなこつ、あったっとね……?」
涼子がほっぺたをふくらませた。
『もう! これやけ記憶力の悪か人は駄目なんばい♨ やからぁ、いくら腕のある魔術師に取り憑いたかて、霊自身がそん魔術の使い方ば知っとらんと、なんにもならんと!』
「それで美奈子さんの変身魔術の使い方がようわからんで、取蜂が困っちょうっちことっちゃね☆」
さすがである。勘の発達している友美のほうが、孝治よりも先に涼子の話を理解したようだ。
『そげんこと♡』
涼子がパチンと、右手の指を鳴らした。これも孝治と友美以外には無音であるが。
事実、取蜂は塀の上で、この先いったいなにをどのようにして良いものやら、まったくわからない様子。頭をかかえて、うなり声なんかを上げていた。
「し、しもうたぁーーっ! わしは変身魔術を習得してなかったんじゃあーーっ!☠」 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |