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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (9)

 これら三人(荒生田、裕志、博美)の会話が、下にいる孝治とヤクザ連中まで、聞こえるはずもないだろう。反対に、下の声は上までよく聞こえていた。

 

「あんこすか野郎ぉ! オレたちばコケにしくさってくさぁーーっ♨」

 

 とにかく阿羽痴を始めヤクザどもが逆にいきり立ち、一斉に塔の真下まで駆け込んできた。

 

 この様子は塔の真上から、手に取るように見えていた。

 

 陣原家宮殿の塔は、本屋敷よりも東側の遠くの所にあった。

 

 言わば離れの見張り塔といった感じか。

 

 しかも戦乱の世とは程遠い、現在の平和な御時世。このような軍事施設が使用されているはずもなかった。そのため建物自体は、ふだんから人っ子ひとりいない状態で放置をされていた。

 

 そんな塔に、今にもヤクザどもが攻め込んでくるかというときでも、博美の度胸は完全に据わっていた。

 

「しっかし、やーもよう、こんな最終決戦場にでーじピッタリな場所を見つけたもんだばぁよ✈ しかもやーの計算どおり、孝治がここにあったーらを連れてきてくれてだばぁよ✌ で、これいっぺー、やの作戦やが?」

 

 ここで出てきた博美の根本的質問に、荒生田はやはりなぜか、引き続きで饒舌的な答え方を繰り返した。

 

「はい、また、また、また、またもお会いしましたねぇ☆ はい、ここでまた、また、また、またご説明をいたしますとですねぇ、あの孝治くん……やない『さん』はですねぇ、なぜかケンカになりますと、このようなダダっ広い広場に向かう傾向が、なぜか昔っからあるんですねぇ★ で、その理由なんですけど、ではちょっと博美さん、ここからかなり離れておりますけれど、孝治さんの表情に注目してください、注目してください、注目してください✌✍」

 

 このセリフにまた、博美はすなおに従うのであった。

 

「孝治の顔ぬーやが?」

 

「はい、そうなんですねぇ☆ それではなにか、おわかりになりましたでしょうか?」

 

「おれはこう見えても、視力はマジムンみてえに抜群なんだから、このくれえの距離ならなんくるないさーなんだけどよぉ、孝治のほっぺがてーげーに赤くなってだある☟ あにさーもしかして、びんない恥ずかしがってるんじゃぬーやが?」

 

「はい、そうなんですねぇ★ 孝治さんはあれでけっこうウブなところがありましてねぇ、人前で目立つことを、けっこう嫌がる性質もあるんですねぇ☻ だからオレ……いやいやワタシといたしましては、あいつ……やない孝治さんのその性格を少々利用させていただいて、前もって人の多い街中から、敵をここまで誘導していただくよう、ご指導致したしだいなんですねぇ☠ またあれで、孝治さんもワタシのお願いをけっこう聞いてくださる先輩思いなところもございましてねぇ☻ あっ、ちょっと敵方の皆さんが、こちらのほうを見ておりますねぇ☆ 危険です☢ 頭を下げてください、下げてください 下げてください☟」


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