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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (4)

 無論連中も、自分たちに近づいてくる女戦士の存在に気がついていた。

 

「おっ? なんや、ねーちゃんやないけ☛」

 

「なんか文句でもあるとや☻」

 

 相変わらずの横柄ぶりが、そのまま顔に出ているような輩たちであった。

 

 その面々の中に、孝治も顔を知っている、兄貴格である利不具の姿はなかった。これが逆に彼らの統率を乱し、さらなる無軌道へと走らせている要因であろうか。

 

 不良な性質の人間は、自分を抑える厄介な存在がいなくなると、とたんに羽目を外すもの。そんな連中だとわかりきっているので、孝治はもはやくどいセリフは言わなかった。それよりも単刀直入に、質問をぶつけるだけにした。

 

「東天はどこっちゃ!」

 

「知らんばい☠」

 

 明らかにトボけている返答を、半そでシャツの阿羽痴が孝治に吐きかけた。もちろん彼らが正直に答えてくれるなど、天地が引っ繰り返っても絶対に有り得ない話だろう。そこは孝治も承知済みでいた。しかも見た目にもいきり立ちが明瞭な阿羽痴は、逆に孝治に喰ってかかってきた。

 

「それよかオレたちに答えんけぇ! なんか文句でもあるとやっちゅうことをやなぁ!」

 

 これに孝治は、表情を一ミリも変えないで応じてやった。

 

「文句ならでたんあるっちゃね☠」

 

 表情こそ変えなかったが、孝治は彼らをギラリとにらみつけたりもした。

 

 これこそいわゆる、ガン飛ばし。だけど連中は、いかにも大人数を嵩{かさ}にきているらしかった。そちらはそちらで、居直りの応酬を繰り返してきた。

 

「ほう、文句があるばってんねぇ☠ やけんそれば言うてみいっち言いよんじゃい♨」

 

 阿羽痴が汚い顔を、孝治の間近まで寄せてきた。この威嚇法も、彼らの常とう手段と言えるだろう――前にも説明したか。

 

 だけども、もはや慣れの境地にある孝治は、この程度の脅しに一歩も引かなかった。それよりも先頭の阿羽痴に、ガツンと言葉を返してやった。

 

「そげん言うてほしかとやったら、思いっきり言うてやるっちゃけ♨」

 

 この際東天の所在など、棚の上に置く。

 

「ほんなこつ金がねえかどうかは知らんちゃけど、男んくせにセコかこつばっかしてからにぃ☠ てめえらいったいどげな育ち方したんか、いっぺんここで言うてみろっちゅうとたぁい!」


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