『剣遊記12』 第五章 悪の宮殿、最終決戦。 (24) 「先生っ! やっぱ凄かですぜぇ☆」
「おれたち一生、先生について行きますばい★」
利不具を始め、前当主を拘束しているヤクザの面々たちも、やはり大口を開いて笑っていた。
彼らの目には暴れる象が愉快であるし、また必死になって宥めようとしている博美の一途な姿でさえ、とても滑稽なギャグとして写っているに違いないだろう。
そんな彼らと大いに異なる者が、未来亭店長の黒崎氏。彼はまた別の意味らしいところで、この場における、場違い的な冷静さを貫いていた。
「邪眼の魔術かぁ……これはまた厄介な術が出てきたもんだがや」
「こりゃ話が、ざっとなかですねぇ☺」
秘書の勝美も、これまた店長に同意している感じ。これにはつい、孝治のほうでキレ気味となった。
「厄介な術なんてもんやなかでしょうが! どげんして店長も勝美さんも、こげな事態になっても、すっごく平静なんですけぇ!」
まさに日頃の雇用関係も忘れて怒鳴りまくるのだが、それでも店子のブチキレなど、能面店長と敏腕秘書にとっては、まさに草原を吹く涼風のようなものだろうか。
その黒崎が、のうのうと言ってくれた。
「まあ、孝治もそう焦らんでええがや。僕自身は魔術を習得しているわけではないが、それでも一応の勉強はしているつもりだがね。だからこの邪眼に対抗するためには……」
そんな黒崎がチラリと目を向けた先には、孝治も瞳が点となる思いのするような人物――荒生田がいた。
「頼んだがや、荒生田」
「ゆおーーっし! わかっちょうっちゃよ、店長☆」
「うわっち?」
黒崎と荒生田の間では、もはや語らないでもなにかが通じているようでいた。まさに孝治の『?』にはまるで構わず、サングラスの戦士がそのままゆっくりとした足取りで、敵の真正面へと歩いていった。
この光景を、なんだか不思議な現象を見るような瞳で涼子が眺め、ひと言ポツリ、孝治の右耳にささやいた。
『……あたし、初めて見たっちゃけどぉ、店長と荒生田先輩っち、けっこうツーカーの仲なんやねぇ♋』
孝治は涼子のセリフに応えてやった。半分感心混じりの口調になって。
「ああ、あれかて未来亭七不思議のひとつっちゃね☝ やけん先輩がいっちょも仕事ばせんかてクビにならん理由も、あげなとこにあるんやなか……っち、おれはときどき思いようっちゃよ☛☚」
孝治としてはまさに、半分は見慣れている――おまけでもう半分は、いまだに信じられんばい――という思いのまま。そんな気持ちでいるのだ。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |