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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (23)

 もはや東天の思うがまま。ラリーがパオーーッと長い鼻を振り回し、大広間にある柱や家具などの調度品を手当たりしだい(正しくは鼻当たりしだい)、次々にドガッ バキッ グシャッと壊しまくっていった。

 

「うわっち! こりゃヤバかぁ!」

 

 孝治も慌てて、象の巨大な体と長い鼻の暴威から逃げ回った。右手で友美の左手を握り締めて。

 

「電撃魔術に加えて、命あるモノすべてに有効な邪眼魔術まで使えるなんち……あの東天って魔術師、いっちょも侮れんちゃねぇ☠」

 

『んなこつ言いよう場合やなかっちゃでしょーーっ!』

 

 こんなときでも、好奇心丸出し。冷静な解説をしてくれる友美に、涼子が喝を入れていた。日頃は傍観者を楽しめる幽霊も、巨象の暴走には、まさしく心臓が縮み上がる思いなのだろうか。この際矛盾(涼子はとっくの昔、心臓停止済み)は、棚に上げておく。

 

「まずかばぁい! みんな逃げぇーーっ!」

 

 侍従長の則松も、気絶中である貴明を弟の貴道といっしょになってかかえ上げ、広間からの脱出を図ろうとしていた。このとき一番大切な前当主は、今もまだ人質の身となって、東天たちの手元にいた。そのため逆に、ラリーに襲われる直接的な危険性は、今のところはないようだった。

 

「おらあっ! ラリー、どう! どう! どう!」

 

 この大騒ぎの中、博美がラリーの頭の上から大声で象を鎮めようと、一生懸命になっていた。しかし猛り狂う巨象は、なかなか主人の叱咤に従わなかった。それどころかパオーーッと、さらに高い吠え声を上げ、部屋中にある物を次々に壊していくばかり。

 

「博美さん! 危なかです! 早よ象から降りてください!」

 

 この状況を見かねたらしい裕志が、こちらも日頃の小心を、自分で一時的に忘れているようだった。この場から逃げようともしないで、象の頭にいる女戦士を追い駆けながらで呼び掛けていた。だが博美はその声に、頭を横に振る動作で応えただけ。それどころかむしろ、涙混じりに叫び返してきた。

 

「しかんだしてるけど、危なくなんかねえだわけさー! ラリーったらくにさー、こんなに暴れていながら、さっきからおれを全然落とそうとしねえだある! くにさーだってあんなやなかーぎーな野郎にあやつられて、ほんとはばんないくやしいんだよぉ!♨」

 

「そげん言うたらそうっちゃねぇ☞」

 

 孝治も柱の陰に隠れ込みながら、博美の絶叫に共感した。

 

「あげん暴れまくっちょうとにラリーのやつ、博美さんばいっちょも背中から落とそうっちしよらんけねぇ☺ これっちでたん不思議なこっちゃよ✍」

 

「つまりぃ、ラリーも戦いようっちゃよ✌ あげんぐらぐらこく魔術師とやね☛」

 

 友美も孝治に同調してくれた。そんなふたりの目線の先では、破壊の張本人である東天が、高らかに笑っていた。

 

「うわっはっはっはっはっはっはっ! こんな田舎貴族の宮殿なんぞ、粉々にブチ壊してしまえーーっ! どうせ吾輩の手に入らんモノなぞ、もはやなんのためらいなどありゃせんわぁ☠☠」


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