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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (22)

「ぐぅ……くそぉ……☠」

 

 中央魔術省の後ろ盾を失った今となっては、もはや東天の表情に、余裕の色はなかった。

 

 そのためだろうか、彼の口からこぼれるセリフも、すでに意味のない歯ぎしりばかりとなっていた。

 

「ど、どげんします……せ、先生……☁」

 

 魔術師の威光を利用し、そのおこぼれに授かろうと、きょうまで忠実に従っていた、地元ヤクザの利不具。その彼がいかにも不安丸出しの顔となり、自分たちが『先生』と呼ぶ男に尋ねていた。

 

 利不具の他に、公爵を拘束している面々も同様。まさに動揺中。だが東天は、どこまでも往生際の悪い野郎だった。

 

「ま、まあ、待て……吾輩らの手の中には、このじじいがおる☠ こうなれば本当の意味で、人質にしてやるのみよ☻」

 

「東天! 貴様どんこんいかんほど落ちぶれるつもりけぇ!」

 

 弟が突然帰郷して、今や元気百倍となっている感じの貴明であった。その陣原家現当主が、日頃滅多に出さないと言われる、かなり大きめの怒声を張り上げた。

 

 それに彼自身も修練を積んでいる、言わば騎士の端くれなのだ。

 

「正義の刃{やいば}、見せちゃるったぁーーい!」

 

 けっこう決まっている構えで剣を抜き、今や陣原家最大の災厄となった魔術師に、猛ダッシュで斬りかかった。

 

 だが、自分を斬りつけようとしている貴族家長男に、東天は再び取り戻したらしい余裕で、右手の手の平を差し向けた。

 

「ふん☻ 笑止☠」

 

 とたんにバリバリバリバリッッと、彼の魔術である電撃が落雷のようにほとばしった。

 

「うぎゃあーーっ!」

 

 激しい電気の衝撃を受け、貴明が剣を右手で握ったまま、遥か後方まで吹き飛ばされた。

 

「兄さん!」

 

 すぐに貴道が駆け寄り、悶絶している兄を両手で抱きかかえた。幸いにして鎧が少々コゲている程度で、命に別条はなさそうな様子でいた。

 

「貴様ぁっ! 父上ば人質にするだけに飽き足りんと、ようも兄さんまでぇ!」

 

 憤怒の目で東天をにらみつける貴道だが、それでも魔術師の澄まし顔は変わらなかった。

 

「ふん、吾輩の力を見くびるではないわ☠ こう見えても吾輩は、一流の魔術の技術を持っておるのですからな☻ だから電撃だけではなく、こんなこともできるのです☝」

 

 不敵に言い放ち、東天が目線の先を変えた。彼が見つめる先にいるモノは、象のラリーであった。そのとたんパオーーッと、ラリーがいきなり吠え立てた。

 

「お、おい! どぅまんぎるさせんな、ラリー!」

 

 突然である愛象の変貌に、博美がその頭に乗ったままで仰天した。

 

「お、おとなしくせんとすぐらりんどぉ!」

 

「ふん、いくらおまえが命じたところで、吾輩の邪眼を前にしては、その象は吾輩の忠実なる僕{しもべ}☻ さあ、象よ! ここにおる者ども全員、皆殺しにしてしまえーーっ!」


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