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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (20)

「東天! にしゃはこん俺んこつなどいっちょん覚えとらんやろうばってん、俺がにしゃがこん家に来てからすぐ、修行と称して出てった理由ば教えちゃるばい!」

 

「ふん☠ 確かに知らんな☢」

 

 陣原家の次男が突然現われたとは言え、別に自分の立場が悪くなったわけでもなし。東天はなおも、余裕の姿勢を崩していなかった。それどころか逆に、冷徹丸出しの眼差しで、貴道をにらみ返すばかりでいた。

 

「そんなことより、なにを今になってほざくことがある☠ この家はもうすぐ吾輩が支配権を握るのだから、どこの馬の骨とも知らぬおまえなど、さっさとどこかでのたれ死ぬがいいわ☻」

 

 このような侮辱発言をされても、貴道は逆ギレなどを起こさなかった。

 

「そうはいかんばい! やけん理由ば教えちゃるっち言いよろうも!」

 

 それから貴道は、着ている軽装鎧の懐を右手でまさぐり、中から何通もの封筒と一枚の書状を、居並ぶ面々の前に差し出した。

 

「これは俺が東の帝都東京まで行って、にしゃん悪行の数々ば調べた結果たい! 例えば汚職っとか横領っとか賄賂っとか言うもんばいねぇ! やけんこれだけ調べんのにえろう時間がかかってしもうたとやけど、腰の重か役人どもかて、やっとこれば証拠として認めてくれたんばい! やけん封筒が証拠の品の数々で、書状が魔術省からのにしゃの解雇通知なんばい! 左遷で厄介払いしたつもりの魔術省の役人かて、これは無視できんようになったようばってんねぇ☻」

 

「な、なにぃ!」

 

 『解雇通知』の四文字熟語を耳に入れて、東天の顔色が、一気に青ざめた。ついでに孝治も、コクリとうなずいた。

 

「やっぱ、思うちょったとおりやったんやねぇ☺」

 

「もっともこん証拠集めには、黒崎店長かてかなり協力ばしてくれたんやけどな✌」

 

 ここで貴道が黒崎に感謝の言葉を贈ると、少々だが敏腕店長の顔が、赤味を帯びた感じの笑みになっていた。実は孝治や勝美たちには聞こえないほどの小声なのだが、次のようにもつぶやいていたのだ。

 

(まあ、本当に苦労させたのは、御庭番の大里なんだがや)

 

 いつも自分のために骨身を削ってくれる忠実なる忍者の御庭番――大里峰丸{だいり みねまる}に、黒崎は静かなる感謝の念を贈っていた。

 

 無論大里自身は今のこの間にも、別の任務を請けてさらなる遠くの地にて、密かな隠密活動を行なっている真っ最中なのだ。


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