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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (19)

 貴明の驚きも、無理はなかった。

 

「た、貴道{たかみち}っ! おまえどげんして、黒崎店長といっしょしとうとね!」

 

「おお、貴道様! これはよくぞご無事で☆」

 

 長男が目をカッと開いて驚き、侍従長は感激の涙を流した。しかも、さらに続いて涙を流した則松の言葉。これがまさに決定打となったのだ。

 

「陣原家の御兄弟がこがんして顔ばそろえられるなんち、わしもきょうのきょうまで生きてきた甲斐があったというものですばい☀」

 

「うわっち! 御兄弟?」

 

「すると……って言うかやっぱり、店長が連れてきてんのが、貴明さんの弟さんね!」

 

 孝治と友美、そろって裏返った声を上げる顛末となったわけ。

 

「もしかして『たかみち』さんっち、貴明さんとは双子の兄弟なんけ?」

 

「……そうなんです♤」

 

 孝治の問いに、兄の貴明がコクリとうなずいてくれた。

 

『……そげん風に言うたら、よう似とるっちゃねぇ☞☜ なんか千秋ちゃんと千夏ちゃんみたいに、世の中双子っち、案外珍しゅうないんやねぇ♠』

 

 友美とクリソツである自分は、なんだか棚に上げている感じ。もっともこちらは、他人の空似であるわけだが。とにかく涼子は孝治と友美ほどには驚かなかったものの、それでも貴明の弟出現と店長の唐突な登場の仕方は、予想の範疇を遥かに超えていたようだ。その疑問を自分では尋ねられない境遇なので(幽霊だから)、代わりに孝治へ頼み込んできた。

 

『孝治ぃ……こん理由ば、店長に訊いてくれんね?』

 

「わかっちょうって✍」

 

 無論孝治自身も、理由を知りたくて仕方がなかった。そこですぐに、黒崎の元まで駆け寄った。

 

「で、でもぉ……貴道さんはともかく、なして店長が久留米まで来たとですか? おれたち……いや、おれ、いっちょもそげな話、聞いてなかったとですけどぉ……☁」

 

 この問いに黒崎は、いつもの澄まし顔。冷静に淡々と答えてくれた。

 

「いや、別に驚かそうとしたわけじゃないがや。ようやくここにおられる貴道君と連絡が取り合えたんで、こうしていっしょに、久留米市まで足を伸ばしてきたわけだがに」

 

「そうそう♡ 私もいっしょにおるばいねぇ♡」

 

「うわっち! やっぱし☝」

 

 いきなりでビックリしたが、黒崎のうしろには、秘書の勝美もついていた。背中の半透明のアゲハチョウ型羽根を、パタパタと羽ばたかせながらで。

 

 しかしそれでもなお、孝治は頭を左にひねっていた。

 

「でも、やっぱわからんちゃねぇ? こん話の流れ方っちゅうもんが♋」

 

 だが黒崎が連れ立っている戦士――貴道は、孝治の疑問など関係なし――と言う感じだった。

 

 彼の目はまっすぐ、東天へと向いていた。


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