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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (15)

 開かれたドアから顔を出した者は、車椅子の老人。それとナイフを握った三人のヤクザも姿を見せた。

 

 早い話が人質。

 

「あっ! ち、父上!」

 

 貴明が叫んだ。

 

 車椅子の老人は、確かに陣原公爵その人であった。しかし彼のノド元には、連中が持っているナイフが光っていた。

 

「東天! 貴様、ここまでやるとねぇ!」

 

 侍従長の則松も、中央派遣の魔術師に、怒り心頭の眼差しを向けていた。しかし、自分が最も忠誠を誓うお方――前当主である父上様が人質とあっては、もはや彼に手を出せる力も機転もまったくなかった。

 

 その東天が、これまた悪びれた表情も見せず、むしろ淡々とほざき続けていた。

 

「いやいや、これはたった今、この陣原家の行く末について、吾輩が直に前当主様と話し合いを行なった結果なのですが、これが吾輩の進言などまったく聞き入れてもらえず、仕方なくこのような、そして不本意ながらの非常手段を使わざるを得なくなったのですよ☻ 従って初めに言っておきますが、このような事態の全責任は、ここにおわす陣原公爵にあるのですからな☠」

 

「せからしかぁ! こんこすか魔術師がぁ!」

 

 ノド元に凶器(ナイフ)を突きつけられていながら、さらに自分自身が高齢である事実も忘れているかのごとく、公爵が魔術師相手に吠え立てた。

 

「おまえが狙ろうとんのは、こん陣原家の実権やろうがぁ! そげなこつ断じて認めんばい!」

 

 これは年老いた前当主の、精いっぱいの抵抗であろうか。だがこれにも東天は、気持ちの悪い薄ら笑いで応えるだけ。

 

「ふふふっ☠ 別にあなた様がお認めにならなくとも、あなたの御子息、現当主はお認めになるでしょうな☻ 今の状況を、その目で見ておられるのですからなぁ☠」

 

 まさにそのとおり。実の父親のノド元に刃{やいば}が突きつけられていては、息子の貴明に抗{あらが}う術はなし。

 

「くそぉ……どこまでも、みたもんなか男がぁ……☃」

 

 せいぜいが顔面に脂汗をしたたらせ、苦渋でくちびるを噛み締めているだけでいた。


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