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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (13)

 巨象と戦士三人(博美、荒生田、孝治)が力を合わせれば、馬鹿で低能なヤクザ連中など、それこそ赤子の手をひねる以下だった。

 

 全員五分もかからずして、呆気なくお縄の身となっていた。

 

「おいっ! 東天はどこね!」

 

 これにて早くも調子に乗った孝治は、ヒモできつく縛っている阿羽痴を、強い口調で尋問してやった。だけど憎ったらしい口振りで、簡単に逆襲もされていた。

 

「馬ぁ〜鹿☠ 先生は今なあ、大事な要件ばしよう最中なんやけねぇ☻ それが済んだらおめえらが捜すまでもなくここに来て、おめえらば反対に片付けてくれるんばい☠✌」

 

「しゃーーしぃーーったい!」

 

 元からの性格である短気が、これまた簡単に爆発。孝治は右手のパンチで阿羽痴の頭を、ポカリとしばいてやった。

 

「痛てっ!」

 

 孝治の右手のほうが、ダメージが大きかったりして。それよりも相手の自由を奪ってからの、ある意味暴力行為。これが警察ならば、まさに大問題となるところ。本当の人権蹂躙ってものだろうなぁ。

 

 ここで孝治よりは遥かに人生経験の豊富そうな博美が、逆上中の女戦士(?)を宥めながら、余裕の構えを貫いてくれた。

 

「まあ、東天がここにいようといまいと、奴さんの手下どもはいっぺーこうして、全員捕虜にしちまっただからよぉ✌ だからこちらがゆくるしてりゃあ、勝手に向こうから出てくるもんさー✌」

 

「未来亭の皆様ぁーーっ!」

 

「ほら来た✌」

 

 そこへ、いつも駆け着けるパシリ役ばかりをしている陣原家侍従長の則松が、ここでも息を切らしながらで走ってきた。

 

「うわっち! 則松さんじゃん♠ 東天の野郎はまだ見つからんとやけど、子分どもなら捕まえたっちゃけね♥」

 

 孝治はニコやかな笑みを浮かべて、則松を待ち構えた。しかし侍従長のほうはと言えば、これがなにやら、只事ではないご様子だった。

 

「こ、子分どころではなかですぞ! 皆様、東天が屋敷に現われたんでございます! ただいま若が、応対をされてるとこでございますぞ!」

 

「うわっち! なしてぇーーっ!」

 

 これには孝治もビックリ。さらに博美も――と書き加えたいところだが、彼女は事実上裏をかかれたにも関わらず、余裕の姿勢を崩していなかった。

 

「なるほどぉ、くったーらは一種の陽動作戦だったわけばぁよ★ こりゃまた一杯喰わされたもんやっしー☻」

 

 やはり孝治とは肝っ玉の質が、断然に違っているみたいだ。でもって荒生田も、もしかして博美が見ている前だからだろうか。またもや口調をガラリと変え、今度はカッコ良く踵を返す仕草を見せていた。ついでにサングラスも、キラリと光らせて。

 

「そげんやったら、捜す手間が省けたっちゅうもんやなかね♠ すぐ陣原家の本宅に戻るっちゃぞぉ♐」

 

「いいねぇ〜〜♡ おれはこう言う、男のけっこう気障であしばー(沖縄弁で『遊び人』)なとこにも、つい惹かれるんばぁよ♡」

 

 ここでもまた博美が、荒生田に憧れ的な目線を送っていた。そんな彼女の背中を、孝治はうしろから小首を傾げて見つめつつ、自分の右横にちょうど舞い降りた友美に訊いてみた。

 

「なんか博美さんの先輩ば見る瞳が、なんか変な気がするっちゃねぇ♀♂ おれって乙女心がようわからんちゃけど、これってどげんことかわかるけ?」

 

「そうっちゃねぇ……まあ、孝治に乙女心がわからんっちゅうのは、また意外やったとやけど☞」

 

「ほっとけ♨」

 

 孝治にプチで突っ込みながらも、友美も同じようにして小首を傾げていた。

 

「これもまあ、男と女の……あるひとつの出会い方っち思うっちゃけどぉ……どうも一般社会が考えちょうようなモノとは、なんか違うみたいなんよねぇ〜〜☁」

 

「う〜〜ん、ますますわからんちゃ☓」

 

 胸にふくらむ謎の思いが、ますます深まる一方の孝治であった。


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