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『剣遊記12』

第五章 悪の宮殿、最終決戦。

     (1)

「あ、あなた方! そんお姿ばいったい、なんがあったとですか!」

 

 筑後川から象のラリーといっしょに帰ってきた、未来亭の一行。そんな孝治たちを、屋敷の正面で陣原家の一同が出迎えてくれたときだった。先に屋敷へ戻っていた陣原家の若旦那――現当主の貴明氏は、最初そのあまりにも汚れきっている孝治たちの身なりを見て、まるで自分の目を疑うような顔になっていた。

 

 まさに荒生田の格好など、泥と煤{すす}と埃と雑草まみれ。ついでに水でビショビショにもなっていたからだ。

 

「ゆおーーっし! こげなん大したこつなかばい☆ まあ、筑後川でチョビっとばっかし、冒険ばしちまったもんやけねぇ☀」

 

「しかます(沖縄弁で『ビックリさせる』)んはそれくらいにして、おれたちのことよりもだばぁ?」

 

 荒生田よりは多少マシな感じの汚れ具合である博美が、出迎えで居並ぶ陣原家の面々を前にして、威勢の良い啖呵を切ってくれた。

 

「ありぃ、東天って魔術師野郎は、今どこにひんぎってんでぇ! こちとらあにさーと話がしたくて、失礼は承知でひんぐったまんま、この家に帰らせてもらったんだからばぁよぉ!」

 

 さらに左手の拳をギュッと握り締め、右足を前に突き出しての口上。これには誰もが皆、一斉に尻ごみを始めたほど。

 

「うわっち! さっすがぁ〜〜☆☆ 天下一の女戦士っちゅうだけんこつ、やっぱあるっちゃねぇ〜〜♡♡」

 

 孝治(キチンと着衣済み)も博美のド迫力に、思わず大いに感心した。一方で裕志は仲間であるはずなのに、両足がガタガタと震えている状態でもあった。

 

「ぼ……ぼくにはできんばい……あげんこつ……☁☂」

 

 このド迫力にあっさりと圧倒されたのか、慌てふためく感じで、貴明が侍従長を呼びつけた。

 

「わ、わっかりました☃ す、すぐにここに呼びますばってん☂ 則松ぅ!」

 

「は、はい!」

 

 侍従長の則松も慌てていた。

 

「ただちに東天ば、ここに呼んでくるげなぁ!」

 

「は、はい! えろうかしこまりましたばぁい!」

 

 侍従長の則松が、バタバタと屋敷の奥へと駆け込んでいった。それから貴明は、帰ってきた一同に、改めて顔を向け直した。博美に尋ね返すつもりであろうが、実に神妙そうな表情をしていた。

 

「いったい……筑後川でなんがあったとですか? それと、東天がなんか関係ば……?」

 

 これに博美の啖呵が続いた。

 

「関係もなんも大有りだわけさー! あの東天って野郎が河原でサラマンダーってやなかーぎーなんを呼び出して、おれたちをゴーヤチャンプルーにしようとしやがったんばぁよぉ!」

 

「なんですってぇ!」

 

 勇猛女戦士の言わば爆弾発言で、貴明の驚きのあまりか、この場で四メートルも飛び上がった(大袈裟)。

 

「負けたっちゃ☠」

 

 孝治も思わずつぶやいたほど。

 

 それはとにかく、貴明もつぶやいた。

 

「ま、まさか……東天がそこまでやるなんち……しかしこれでもう、僕も決心ば着きましたけん♦ あいつらばこん久留米市から追放ばする決心が♨」

 

「そげんなったら、あいつもとうとう逮捕ってわけっちゃね♥」

 

「そうっちゃねぇ☆」

 

『あたしもそん現場ば、早よ見たかぁ☆』

 

 半分苦渋――もう半分は決断の色に染まっているような貴明の顔を見て、『あいつら』に対する恨みつらみ満載の孝治は、小声で友美と涼子相手にささやいた。そのときちょうどで、侍従長の則松が、息を切らしながらで屋敷の正面に戻ってきた。

 

「若ぁーーっ! ぞうたんのごつエラかことでございますぞぉーーっ!」

 

「今度はなんがあったとやぁ! そげんおらびよってからぁ♨」

 

 貴明も渋い顔になって、侍従長を待ち構えた。その現当主の前で走りを急停止させ、則松が一気にまくし立てた。

 

「と、東天のやつが、こん屋敷からおらんようなっておりましたぞぉーーっ!」

 

「なんばしよっとやぁーーっ!」

 

 これにて貴明、二回目の大ジャンプを披露してくれた。


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