前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記番外編U』

第五章 剣豪伝説の曙。

     (3)

「ほな、そろそろのようでんな☘」

 

 一礼から頭を上げたエルフの吟遊詩人が足を停めた場所。変な騒ぎがなければ、ここは三人の当初の目的地であった、大阪の南港。多くの連絡船が行き交う波止場であった。

 

「私はここより船に乗って、今度こそ九州へ向かいます⛴ そやけどあなた方おふたりは、これからどこへ参られますかいな?」

 

「わしらけぇ……☁」

 

 以前にも一度、二島から問われ、そのときにもそれなりの――千恵利との同行を返答していた板堰ではあった。しかし、こうして改めて尋ねられてみると、妙におかしな気持ちになってきた。

 

 そう。今までの板堰は、常にたったひとりで、日本の各地を放浪してきた。またこの生き様は、生涯永遠に貫かれるだろうとも考えていた。

 

 だがどうやら、その主義を変えなければいけない日が、訪れたようなのだ。

 

 意を決した板堰は、自分の右横で控える千恵利に目を向けた。

 

「わしゃあ……いや、やっちもねーことは言わんけー☣ わしらは……」

 

「なぁに? 守君……☆」

 

 ここでいつもならばにぎやかなはずの魔神娘――千恵利が、なぜだか固唾を飲んでいる様子。緊張の面持ちで、板堰の横に立ち尽くしていた。

 

 そんな彼女の気持ち――以前ならば絶対に理解できなかった女の子の気持ち――が、今では痛すぎるほど胸に伝わってくる。

 

 だから声も細げに、板堰は静かな口調で告げた。

 

「道場破りはもうやめじゃ✄ 剣の修行を一からやり直すけんのー✍ 千恵利とふたり……でじゃ⚢」

 

「それ、ほんまかぁ!」

 

 とたんに千恵利が、板堰に飛びついた。まさに高まる感情を抑えられなくなった――と、このように表現をすれば良いのであろうか。

 

 また、二島ももちろん、これから旅を伴に行なうであろうふたりを祝福。満足そうな笑みを、満面に浮かべていた。

 

「そうおっしゃられると思っていましたよ♡ またいつの日か、この日本のどこかで再会を果たすことがあるでしょうけれど、そのときまでにあなたたちを称える歌を作っておくことを、私はこの場にてお約束をいたしますです、はい♡」


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system