『剣遊記番外編U』 第五章 剣豪伝説の曙{あけぼの}。 (1) 恐るべきスケルトンの軍団ではあった。しかし彼らは、魔剣と一体化した戦士の前に、呆気なく全滅して果てた。
その後、アンデッド軍団を召喚した魔術師と非道戦士の三人組をお縄にした板堰一行は、逃走した経路を後戻り。大阪市に入ると、三人を衛兵隊詰め所に突き出した。
と、ここまでの経緯は良好。ところがこの時点に至ってもなお、麻司岩、脛駆、伊奈不の三人とも、二島の超長広舌の毒気から、いまだに立ち直ってはいなかった。
「はわわわわぁ〜〜☠」
「あひぇひぇ〜〜☠」
「ながい〜〜、はなしがながい〜〜☠」
おかげで連行の最中から、意味不明(原因は明瞭)のうわ言を繰り返すばかりでいた。
「おまえらを陥れたんがこやつらの嘘偽りなんはようわかったんやが、この有様はいったい、どないやことやねんな?」
鼻の下のチョビ髭が自慢そうな大阪市衛兵隊長の当然すぎる疑問に、二島が代表して自信たっぷりに答えようとした。
「ほな、その理由をここで表明して御覧にいれましょうかいな♡」
早い話。再び衛兵隊詰め所において、あの超長話を始めて説明を行なうつもりでいるのだ。その恐ろしさを充分身に沁みて体感している板堰は、慌てて吟遊詩人を止めに入った。
「もう止めとけっちゅうの! ここん人たちまでひょんなことになっちまうけのぉ!」
板堰の(もはや)懇願に、二島はすなおな態度で応じてくれた。
「はい、そうでっか☺ それならば、この場ではやめにしておきまんがな♪」
このふたりのやり取りを見ていた周りの衛兵たちは、全員目が点となっていた。そのまたついでであろうか、千恵利が目に『?』を浮かべている隊長に、金髪碧眼の笑顔を向けていた。
「まあ隊長はん、こん人たち一週間くらい留置場に入れといたら、たぶん正気に戻りはる思うで☻ そやから取り調べはそれからでもええやないか♡ なあ、そうしなはれや♡」
まさに愛くるしい瞳で、少々苦しめの言い分にて隊長をそそのかそうとする千恵利。だけどさすがに、それは通りそうにない話であった。
「い、いや……そないなわけにはいかんわい……☹」
多少顔を赤らめながら、隊長が頭を横に振った。その次の瞬間を、板堰と二島は目撃した。隊長の目が千恵利の青い瞳によるまばたきに、魔力で引き寄せられている光景を。
「…………♡」
隊長の鼻の下がチョビ髭ごと、ぐぅ〜んと二十センチも伸びた(大袈裟な表現法)。
「なあ、ええやろ♡」
「わ、わかったわ……そないしよ♡」
けっきょく隊長は、千恵利からねだられるまま。麻司岩たち三人の正気が戻らないうちから、彼らを留置場へとぶち込んだ。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |