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『剣遊記W』

第五章 嗚呼、女戦士哀史。

     (6)

 そんな奇妙な宴{うたげ}の場と化した酒場に、ワイバーンの見張りを孝治と交代した沖台が帰ってきた。

 

「兄貴、今戻りました……あれ? こいつら……☛」

 

 無論沖台も、男たちの顔を覚えていた。しかし、沢見の弟分であるアンドロスコーピオンがなにかを言おうとする前に、男たちのほうが気安く声をかけてきた。

 

「おおっ! あんときのアンドロスコーピオンの兄ちゃんやかぁ☆ あんたもいっしょに飲むぜよぉ☀」

 

「あ……ど、どうも……☁」

 

 けっきょくなにがなんだかわからないうちから、強引に酒を勧められた格好。不可解な気分をあらわにしながら、沖台もお酒のご相伴に授かった。それでも胸の内の疑問が、解消されたわけではなく、沖台が沢見に小さな声で、そっと尋ねた。

 

「あ、兄貴ぃ……こりゃいってえ、なにがあったんですかい?」

 

「気ぃつけや☠」

 

 弟分から尋ねられても、沢見は男たちに警戒の目線を向けたままでいた。

 

「こいつらなんか企んどるで☠」

 

 このときなんだか、沢見は急に、まぶたが重くなっていくような気がしていた。

 

「……しもた……やられたわ……☠☠」

 

 しかし気づいたときには、もう遅し。沖台への返答が、肝心な部分にまで到らないままだった。沢見はテーブルに突っ伏した格好で、頭をガクンと落としてしまった。

 

「あ……兄貴ぃ……ど、どうしまし……たぁ……☁」

 

 さらにつられるようにして、沖台も床にうずくまった状態。早くも寝息まで立てていた。

 

 また裕志は、このふたりよりも前に、とっくに眠りへの世界。テーブルに右のほっぺをくっ付けて、完全に熟睡の有様となっていた。だが、一番酔っているはずの荒生田であるが、こいつだけはいまだ平気の体。男たちと酒の酌み交わしの真っ最中だった。しかしさすがに、周囲の仲間たちが寝ている姿には、気がついたようである。

 

「あんれ? なんら、みんなエラい酒には弱いっちゃねぇ……オレなんかいっちょんピンピンらのによぉ……☁☁☁」

 

 とろんとした三白眼の赤い顔で、熟睡している三人を、荒生田は揺り起こそうとした。

 

 それぞれの頭や肩をバシバシしばくという、親切丁寧(?)なやり方で。

 

 だけど沢見も沖台も裕志も、もはやピクリとも反応を起こさなかった。

 

 ここで五人組が薄ら笑いを浮かべながら、荒生田ひとりだけを、酒場の奥へと連れていった。

 

「おやおや、お連れの方々らはどうやら、お酒の回りがお早いようですなぁ♠ それでは皆さんがおどろくまで、俺らは席を変えてこちらへどうぞ♐」

 

「そうっちゃね♑☈」

 

 すっかり千鳥足となっている荒生田を、五人が抱きかかえるようにして引っ張っていく。その光景を、幽霊の涼子は、しっかりと見届けていた。


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