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『剣遊記W』

第五章 嗚呼、女戦士哀史。

     (18)

「ふう……やっと落ち着いたぁ〜〜✈✙」

 

 熱かった体もようやく冷めて、孝治は地面から上体を起き上がらせた。

 

 今までにも何度か実行したことはあった。つまり全裸で野外に立つというのは、なんとも言えない解放感があるものだ。しかもこれは、男性時代からたびたびやっていた習慣なのである。もしかして、半分病みつきになっていたりして。

 

「背中流してやるばい☆ 泥が付いとうけ☟」

 

 好意的な声に、孝治は大いに甘えさせてもらった。

 

「あっ、すいませんねぇ♡ でも釜のお湯、けっこう熱うなってますっちゃよ♐」

 

「大丈夫っちゃよ☆ オレが川ん水ば入れて、ぬるうしてやっとうけ☺」

 

「ああ、それなら……お願いします♡」

 

 確かに孝治の背中にバシャッとかけられたお湯は、まさしく適温そのもの。これはうれしいばかりの、心づかいといえようか。

 

「どれ、オレが背中ば洗ろうてやるけ☺ そこん石に座れ☞」

 

「はい♡」

 

 声の指図どおり、孝治はそばにある大きめの石に腰を下ろした。そのうしろからタオルで背中をこすってくれると、これがまた凄く気持ちが良かった。

 

 声が優しく言ってくれた。

 

「すっげえ垢{あか}っちゃねぇ☻ 一週間に一度やのうて、風呂は毎日入らんといけんばい☜」

 

 孝治は愛想笑いでごまかした。

 

「ははっ、それはわかっとるんですけどぉ……職業柄、どげんしてもそげんなっちゃうとですよねぇ♥☺」

 

 このとき背中をこすっているタオルがズレて、洗ってくれている者の手が、孝治の裸の背中に直接触れた。

 

「おっと、すまん☻」

 

「ああ、大丈夫です☺♡」

 

 さらにタオルを持っているゴツい右手が、偶然を装ったかのように、孝治の左胸にペタンと当たった。

 

 ここで孝治は、しゃがんだ姿勢から目線を上げた。瞳の前では友美と涼子が、なにかを訴えたいのか、口をパクパクとさせていた。

 

 おまけに身振り手振りも繰り返し。ふたりそろって右手人差し指で、孝治のうしろを指し示していた。

 

 なにやらうしろを向け――の仕草らしかった。

 

「おっと、すまんっちゃね☻」

 

 先ほどと同じセリフで、ゴツい手が、今度はお尻に当たった。

 

 孝治は言った。石に腰掛けたままの姿勢で。さらにうしろを振り返りもせずに。

 

「……いったい……いつん間にここに来たとですか……せ・ん・ぱ・い……☠」

 

「そら、決まっとろうも♡ おまえが入浴しとるっち、裕志から聞いたけね♡♡ それで先輩として後輩の労ば癒{いや}してやろうっち思うて、こげんしておまえの体ば、洗って差し上げようっち思うてな♡♡♡」

 

 悪びれもせず――かと言って、開き直るわけでもなし。荒生田がズケズケと、堂々とした口調で答えてくれた。

 

 孝治はそんな荒生田に尋ねてみた。

 

「先輩、ひとつ質問がありますっちゃ♐」

 

「おう、なんでも言うてみい♪」

 

「先輩のこの行ないは、このおれに対するいたわりなのか♨ それとも単にスケベ心を満足させたいだけなのか……どっちですか?」

 

「そりゃ、あったり前やろうが☆☀」

 

 ここで振り返った孝治に向けて、荒生田が再びキッパリと答えてくれた。

 

「オレとおめえの仲やないけ♡ 後輩ば思う先輩としての、当然の親心たい☆」

 

 サングラスの奥で光る三白眼には、はっきりと♡のマークが写っていた。

 

「ウソ吐けえーーっ! こんド変たぁーーい!」

 

 孝治怒りの回し蹴りが、ボグアァァアァァァァァァァァッッと炸裂! これをまともに顔面へと喰らった荒生田!

 

「孝治ぃーーっ! 見せ過ぎばぁーーい!」

 

 奇声を発して釜風呂に、バッシャアアアアアアアンンと頭から突っ込んだ。

 

 変態の釜ゆでの出来上がりである。

 

 なお、孝治はいかなるポーズで、回し蹴りを決行したのか。

 

 くわしい描写はお断りする。


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