『剣遊記W』 第五章 嗚呼、女戦士哀史。 (14) 「孝治、ただいま! 夜食ば持ってきたっちゃよ☆」
孝治の肩を揉む裕志の両手に、ようやく力らしい力が入ってきたときだった。友美が右手に幕の内弁当を持って、楽屋に戻ってきた。ちなみにここでは舞台用ドレスを脱いで、ふつうの水色Tシャツに着替えていた。
無論裕志には見えていないが、友美のうしろには、ちゃんと涼子もいっしょにいた。
「お帰り……先輩たち、なんしよったね?」
孝治はすぐに、友美に尋ねた。友美と涼子は夜食調達のついで、孝治の頼みで、荒生田たちの様子も見てきたのだ。
孝治の問いに対し、友美が『やれやれ☺☻』といった感じで、両方の肩をすくめながらで答えてくれた。
「別になんも☺ 先輩と沢見さん、あしたの漫才の脚本ば、一生懸命ふたりで練りよったばい✍ 今度こそ大ウケば狙うって✌」
「うわっち! あっちゃあ〜〜っ!」
孝治は頭痛のさらなる悪化を感じ、両手で頭をかかえた。
「先輩と沢見さん、わかっとんやろっか? なんの理由で、おれたちがこげな有様になっとうかを✄」
『あたしが思うに……たぶんわかっとらんのとちゃう?』
「うわっち!」
身もフタもない答えをズバリと言って、涼子が孝治をコケさせてくれた。この間幽霊が見えない裕志だけは、なにがなんだかさっぱりわからないご様子。いつまでもとぼけたキョトン顔のままだった。
そんな話で盛り上がっている(?)ところに、また例の監督官がご登場。
「おまんらぁ! なにしてんのよぉ! 仕事が終わったきに、すっと寝ちゃいなさいよぉ!」
まるで常に見張っているような現われ方。ついムカッときた孝治は、わざと反抗的な口答えで応戦してやった。
「ああ、寝るっちゃよ! やけんそん前に、風呂ぐらい入らせいっちゅうと!」
「まあ! お風呂ですってぇ! なんて贅沢なこと言ってんぜよぉ!」
監督官の眉間がもろに引きつった様子が、真正面から見てよくわかった。
「そんなもの、ありませんぜよ! ごくどうなことせんで、早く寝なさい!」
「客商売が売り子に不潔ばさせてよかとね!」
「そんなに入りたけりゃ、裏の川でも飛び込んでらっしゃいよぉ!」
監督官は大声で孝治に怒鳴りつけ、プイッと楽屋をあとにした。
ドタバタと大きな足音を立てて。
このあと孝治は、カマッ気監督官の捨てゼリフを、そのとおり実行することにした。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |