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『剣遊記番外編U』

第四章 魔剣VSアンデッド軍団!

     (8)

「そうけ、どげーあっても剣をどうしたかを吐く気はねえんじゃのぉ♨」

 

 板堰も、まだそこまでは言い切っていないのだが、返答になっていない元後輩戦士の回答で、麻司岩が勝手にそうと決めつけた。それから床にツバをペッと吐いてから、ひと言。

 

「やっぱりここで死んでもらおうかのぉ♐ どうせ生かしておいても、おれたちの目障りにしかならん野郎じゃけん☠」

 

「そうじゃのぉ♡」

 

 早くも懐から短剣を取り出し、脛駆がいやらしくもうれしそうな顔で、舌舐めずりをやらかした。

 

(こいつら……根っからのサディストじゃけんのー☠)

 

 半倉道場時代からの、元先輩どもの愚行を散々見せつけられていた板堰は、もはやウンザリの気分しか、他に例えられる言葉がなかった。だが、このような様子から察するに、ふたりの元先輩たちは、魔剣にそれほど執着をしているわけではないようだ。むしろ伊奈不とやらに引っ張られる格好で、自分たちの拉致に付き合っている感じがした。そこで板堰は、なにも居直る風でもなし。脛駆の左側に立つ魔術師に訊いてみた。

 

「こいつらふたりより、あんたのほうが魔剣を求めちょるようじゃが、どうせわしらを殺る気じゃったら、最後にその理由くらい教えてもろうてもええんじゃないけ?」

 

「ふん☠ 理由やて☠」

 

 板堰たちを見事に拘束はしたものの、肝心の魔剣がないので(本当は目の前にいる)、やや落胆している様子の伊奈不であった。ところがそれでも、板堰の質問に応えるだけの余裕を残していた。

 

「まあ、ええやろ♪ おまえらは知らんやろうが、明日香の魔剣には、我々魔術師がそれこそ何百年も前から捜し続けている未知の魔道についての手掛かりがあるんや✍ そやさかい、今回魔剣の話を耳に入れて、わいはまさかと思うて期待もしたんやが、結果はおまえらのせいで、みんな骨折り損のくたびれ儲けに終わってしもうたわ☠」

 

「ほう、それはオレも知らんかったけのー⛔」

 

 麻司岩も興味深げになって、伊奈不の言葉に聞き耳を立てていた。それからもちろん板堰も――であるが、囚われの戦士は小声でそっと、当の魔剣――千恵利に尋ねてみた。

 

「今ん話って……ほんまけ?」

 

 ところが答える千恵利のほうは、顔付きがもろに困惑気味となっていた。

 

「さあ? でもまあ……そうみたいやなぁ☁ 実はあたしかてよう知らんのやけどぉ……☂ 同じ仲間んことは聞いとんのやけど、未知の魔道っちゅうのは初耳やわ♣」

 

 この一方で麻司岩のほうは、さらに興味しんしんの顔付きで、伊奈不に訊いていた。

 

「で、未知の魔道って力が手に入ったら、なんかええことでもあるんかのぉ? 例えば世界征服っとかじゃな♡」

 

 これに伊奈不は、ふんっと鼻を鳴らすだけの態度でいた。

 

「まあ、今まで黙っとったのは悪かったわい⚠ この話の続きは、こいつらを殺ったあとでゆっくり教えたるわ♪」

 

「それもそうじゃのぉ♡ 今はそっちんほうが先決じゃ♥」

 

 確かに話を聞くことは、あとでいくらでもできる。麻司岩が囚われの板堰たちに、残忍の目を向けた。

 

「じゃあ一番は、このエルフの野郎ってとこじゃのぉ♡ そん次が板堰で、最後が女じゃあ♡」

 

 おまけに今やすっかり、頭に乗っているようだ。脛駆が勝手に、殺しの順番を決めていた。だけども麻司岩も伊奈不も、特に異論はない感じの態度でいた。

 

「よっし、まずはひょんなやつのおまえから、首を叩っ斬ることにするけんのー♥」

 

「やれやれ、この私が一番でっか☃」

 

 麻司岩からの死刑宣告を受け、二島が嫌々そうに立ち上がった。

 

 ところがもうすぐ殺されるというのに、その表情は妙に晴れやかなモノだった。なにしろ後ろ手に縛られている不自由を意に介さず、簡単にピョンと立ち上がれるほどの身の軽さであるのだから。

 

 もっとも殺す側にしてみれば、エルフの余裕など、まるで関心はないようだ。

 

「安心せい♡ すぐに仲間もあの世に送ってやるけんのぉ♡」

 

 それこそ人殺しが楽しいと言わんばかり。脛駆がそのブスな顔に薄ら笑いを浮かべていた。しかし二島は、そんな彼らに向かって、ひと言。

 

「それでは、ここで長きに渡った私の一生がピリオドになるのでありましたら、せめて私に懺悔{ざんげ}と辞世の句を歌わさせていただけないでしょうか? いえ、お時間は取らせまへんので♡」

 

「ふん☠ 勝手にするがええ☠」

 

 完全傲慢になりきって、余裕しゃくしゃくの麻司岩である。そうであるから、エルフの最後の哀願にも、変に寛容な態度を見せてくれた。

 

「そうでっか♡ それは実にありがたいことでんなぁ♡ では、お言葉に甘えさせていただきまんがな♡」

 

 二島はひと呼吸を置いて、早速得意の講釈を語り始めた。


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