『剣遊記番外編U』 第四章 魔剣VSアンデッド軍団! (6) 「『おまえら』とはご挨拶じゃのぉ♨ 相変わらず先輩への礼儀を知らんやつじゃ☠」
ニヤけたツラの中に敵意をにじませつつ、麻司岩が勝ち誇っているかのように言い放った。
「どないして、私どもがここまで来とうのがわかったんですか?」
この二島の問いには、例によってか魔術師の伊奈不が答えてくれた。
「わいはやなぁ、こう見えとっても魔術学校を優秀な成績で卒業したんや✌ そやさかい、探知の魔術でおめえらの足取りをつかむくらい、わけのないことやで♥」
「なるほどぉ、優秀な成績ですかぁ……☻」
その学校は成績重視で、肝心の立派な人格形成は不問で関心なしのようでんなぁ――とは、このときあえて、二島は口にはしなかった。あとでこっそり、板堰と千恵利にはささやいてくれて、その本心がわかったのだが。
「そげーなことじゃ☻ まあ、おめえらのちーと先回りをして、これだけ大掛かりな罠を張るんは、ちーとばかし骨が折れたもんじゃけどな♥」
ここで例のごとくで、調子に乗ったらしい。脛駆が誰からも訊かれていない補足説明を、親切丁寧に教えてくれた。
それにしても、彼らの自慢話のとおりだとしたら、作戦というには、あまりにも凄すぎ――あるいは遠大で投機的すぎ――とも言えそうだ。
脛駆の言うとおり先回りに成功したならば、ただ道端で待っていれば済む話のはず。それをなんの根拠と策があってか、わざわざこのような店までも用意するとはのぉ――と、板堰はもはや敬服に近い思いで考えた。その解答など、これまた先に示したとおり、作戦が思っていた以上に段取りがうまく運んだので、彼らも有頂天かつ天狗になっているのだろう。今度は伊奈不の親切丁寧な自慢が、やはり延々と繰り返された。
「大阪でヤバいことになってトンズラする連中は、どう言うわけだか必ず西に逃亡するもんなんや☜ これはたぶん、東のほうに行けば帝都の京都があるさかい、自然と中央から離れる方向に足が向くんやろうけどな✍ しかしやなぁ、街道をここまで来た所で、大抵の連中は腹を空かせてしまうもんやさかいに、ここらで飯やっちゅうことになるんが定番なんやけ、昔潰れて閉店したこん食堂を使って、ここに罠を張らせてもろうたわけなんや♥」
「なるほどぉ、つまり私たちも、今までの逃亡者の轍を踏んでしもうたわけなんですな☠」
これまた妙な部分で、二島が伊奈不の解説に、納得の様子でいた。
「ちっ!」
一方で二島とは対照的に、板堰は舌打ちを打っていた。しかも今回は彼らのもくろみどおり――おまけに店が千恵利好みだった偶然が、さらに好都合の展開となったようだ。だけど、もしも板堰たちが店の前を知らんぷりで通りすぎたら、そのあといったい、どうするつもりだったのだろうか。
(相変わらず、失敗んことは考えん連中じゃのう☠ もっとも、わしらに文句を言う資格もないけんのー☠)
板堰の疑問は尽きなかった。また、再び板堰とは真逆の形で、二島の『敵ながら天晴れ☀』には、自嘲が少々含まれているような感じでいた。そのついでか、伊奈不への質問も繰り返した。
「これほどまでの綿密な罠の張り方✍ これはこれで敬意に値いたしますなぁ✋ すると、ここにおられるスケルトンの皆はんも、やはりあなたがご召喚なされたのでございますかな?」
無論、伊奈不は鼻高々のご様子だった。
「ああ、本来わいは死霊術は専門外なんやが、多少は齧ってもおったんや✌ いざってときに役に立つって、こんことやわ♡」
「そうでっか✋ それはとにかく、召喚なされたのがスケルトンで、真にもって良かったです♥」
「それはどない意味や?」
ここで眉間にシワを寄せた伊奈不に向け、二島が得々と言葉を続けた。
「いえ、特に深い意味合いはございまへんのや✋ ただ同じアンデッドでもゾンビ{動死体}なんぞを呼び出されはったら、ほんま臭そうてあんじょうたまりまへんからなぁ☠ それではとても、食堂で罠を張りはるには不向きなアンデッドでございますので、とにかく臭いの無いスケルトンで、私らの鼻が助かりましたわ♡ これに加えて、さらに称賛をさせていただければ、言葉を発するスケルトンと言うのも、この私初めてご拝見とご拝聴をさせていただきまひた♋ これもあなたの術の賜物なのでございますかな?」
ところがこの質問には、伊奈不ではなく脛駆が得意そうに答えてくれた。
「さっきん声は、おれの腹話術じゃ♡ どや、いかにも骸骨がそれっぽくしゃべったようじゃったろうが♡」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |