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『剣遊記番外編U』

第四章 魔剣VSアンデッド軍団!

     (5)

「あなたはなにをおっしゃられておられるんでっか?」

 

 給仕係の様子を、さすがに不審と感じたようだ。二島が給仕係に、言葉の真意を問いただそうとした。すると驚くべき事態が発生。給仕係の女の子が、突然自分の左ほっぺの皮を右手でつまみ、そのまま一気に、ベリッとまくり上げたのだ。

 

「な、なんと、これは異なもの!」

 

 二島が一番に驚がくの声を上げた。給仕係の顔の皮がめくれて、そのあとに剥き出しとなったモノ。

 

「げげっ!」

 

 それは大抵の事態では動じない肝っ玉の持ち主を自認している板堰でさえ、たまらずに声を張り上げさせるシロモノだった。しかも魔神であるはずの千恵利にまで、それは甲高い悲鳴を上げさせた。

 

「きゃあーーっ! なんやこれぇーーっ!」

 

 なぜなら皮がめくれた給仕係の素顔が、肉も眼球もないドクロであったからだ。

 

 この有様を見た二島が、さすがに冷静とは言えないながらも、かなり的確な説明をしてくれた。

 

「こ、このお嬢はんはスケルトン{骸骨兵}やないでっかぁ! まさに道理☞ この店に、にぎやかさがカケラも感じられんはずでんがな!」

 

 これに『正解』とでも返すかのようだった。給仕係――だったモノが、着ているメイド式制服をボトボトと床に落とし、スケルトンの白い骨格をあらわにした。多少黄ばんではいるけれど。

 

「アンデッド{死兵}けー!」

 

 板堰は叫んだ。とにかく魂だけではなく、すべての血肉を完全に失っている、死者のなれの果て。人はそれをアンデッドと呼称。まさに人の心の奥底に潜む、悪夢の具象化に他ならなかった。

 

「こいつだけじゃねえぞ! 死にょーるのは、この店の客全部じゃあ!」

 

「なんですと!」

 

 板堰の大声で、二島が店内を見回した。すると板堰の絶叫どおり、周りを占有していた男女たちが、やはり給仕係と同じように衣服と――自分の生皮を床に落として、肉の無い骨だけの正体を、三人の前に晒け出していた。

 

「やだぁ〜〜っ☠ 気色悪ぅ〜〜っ☠」

 

 魔神の分際で、千恵利が板堰の背中に即行で隠れた。板堰はそんな彼女を庇うつもりで、腰の剣を引き抜こうとした。ところが――であった。

 

(こりゃどーならんわ! 千恵利が剣じゃったわ☠)

 

 自分自身のかなり間抜けな気分を味わったあと、すぐに背中の千恵利に叫んだ。両目は正面のスケルトンどもに向けたままで。

 

「千恵利ぃっ! 出番じゃあ! おまえの斬れ味、これで試させてもらうけんのー!」

 

 ところが、これに対する彼女の返答。

 

「ややなぁ☠ あたし、こないな気色の悪いもん、斬りとうないわぁ〜〜っ☠」

 

「おまえはのぉ……☢」

 

 そげーでもおまえは魔剣けぇ――と、小言のひとつも投げつけてやりたいところ。そこを二島が、制して止めてくれた。

 

「板堰殿っ! 今はケンカしてる場合やおまへんで! スケルトンどもの親玉のご登場のようでんがな☠」

 

「なんじゃと?」

 

 その二島が言うところの親玉とは、板堰にとっても『やっぱそうけー☹』とでも申すべき人物たちだった。

 

「なるほどぉ、もしかしたら……っち思いよったんじゃが、やっぱおまえらけ☠」

 

 スケルトンどもが板堰ら三人を取り囲む中、店の奥の厨房から、もはや定番顔の三人組が、実に忌々しいニヤけたツラで現われた。


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