『剣遊記番外編U』 第四章 魔剣VSアンデッド軍団! (4) 食堂の中に入ると、店内には板堰たち三人と同じ年ごろ(おっとエルフの二島は例外。厳密に言えば千恵利もか)の、若い男女ばかりが十組ほどのにぎわいとなっていた。
だが、それにしては少し様子がおかしかった。
「なんか店の空気が暗{くれ}えって思わんけー?」
戦士の勘で異常に感づいた板堰は、小声で二島にささやいた。すると吟遊詩人もまた、板堰と同じで、店内の変な雰囲気に気づいていた。
「……確かにおっしゃられるとおりでんなぁ☹ 本来ならば仲睦まじく楽しんでいるはずの皆はん方の、この不可思議なほどの静かなること☢ これではまるで、お通夜でんがな☁」
まさにそのとおり。三人の周りを占有している男女たちは、皆一様に押し黙ってうつむいているだけ。若者にふさわしい溌剌さが無ければ、華やいだ盛り上がりも活気も見当たらなかった。
もっとも千恵利のみ、周りのこのような暗い雰囲気など、まったく意にも介していないようでいた。
「あたし、バナナジュースや♡ それとプリンアラモードもええなぁ♡ ねえ、守君はなんにするぅ?」
いったい、いつの時代からこの世に生を受けたものやら。それはまるでわからないが、まさしく今どきのギャル&ガールそのまんま。接客にようやく現われた店の給仕係(彼女も千恵利と同年代に見える。おっとこれも間違い。千恵利のほうは、超遥かに年上だった)に、にぎやかな注文ばかりをしていた。
「ねえちゃん、よろしゅう頼むで♡ もういっぺん言うさかい、あたしはまずバナナジュースやぁ♡」
この給仕係の、これまた生気の無いトロンとした顔付きなど、やっぱり関係なしといった感じで。
「守君もなんか頼みぃやぁ♡」
「……わしけ? わしはやのぉ……☙」
つい千恵利の超明るさに乗せられ、『コーヒーでええ☺』と言いかけた板堰であった。
ところがその寸前、当の給仕係が、変なセリフをしゃべり始めた。
「ガガガ……見ツケ……タ。いたびつヲ見ツケタ……」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |