『剣遊記番外編U』 第四章 魔剣VSアンデッド軍団! (3) 三人の逃亡者(?)は尼崎市を越え、神戸市を越え、明石{あかし}市を越え、もうすぐ姫路{ひめじ}市まで達しようとする街道の分岐点にまで到達した。でもって現在、今のところまでは何事もなく済んでいた。
おまけに道ですれ違う衛兵たちも、もともとなにも知らされていない要因もあるのだろう。戦士、吟遊詩人、それに白いTシャツ姿の女の子のトリオに、なんの関心も示そうとはしなかった。
まあ唯一、千恵利が金髪のグラマーな西洋女性である点が、興味本位で彼らを振り向かせる程度である。ただしこうなるとだんだん、気の緩みが生じてきても、これはこれで仕方がないといえるのかも。
「なあ、あそこの食堂で、なんか食べていかへんか☀」
本当なら今でも思いっきりに、警戒心を保持しないといけない中だった。千恵利が目ざとく見つけて、右手人差し指を向けた食堂は、極めて開放的で洋風な、旅人専用のレストランであった。おまけに『本日特別メニュー価格実施中!』と書かれている幟{のぼり}までが、入り口に立って風になびいていた。
「ええなぁ♡ あたし、おなかペコペコやねん♡ 特別言うたら、きっと豪華な食事が半額以下なんやろうなぁ♡」
どうやら千恵利は、あのような宣伝文句に弱いようである。しかしそこの店は追っ手にとても見つかりやすそうな、つまり『ヤバい』場所とも言えそうだった。
「あのお店はおやめになったほうが、ええと思いまっせ✋ 私といたしましては、街道より離れた、もっと奥にあるようなお店がよろしいかと愚考いたすのですが✍」
「そうじゃな✎」
二島と板堰は同意見だった。しかし千恵利が、ここで本来から身に付けているらしい。わがままと駄々コネの本領を発揮してくれた。
「そんなん嫌やぁ☠ あたしって、ずいぶん長い間、ジメジメしとった洞窟におって、ああ言った現代のギャルたちが集まるようなお店に、でらい憧れとったんやからなぁ☀ ここまで来れば追っ手なんか大丈夫やさかい、あそこで食べても平気や思うわぁ☆」
実はこのとき、必死に哀願しながらも千恵利は内心で、ペロリと舌を出していた。
(ほんまはあたし、大地の精気を吸収して生きとんのやから、なんも食べんでも平気なんやけどな♡)
さすがの二島と板堰も、女の子の演技力まで見抜く力は持っていなかった。
「大丈夫ですかぁ……まあその点やったら、やはり魔神はんの意見には傾聴するモンがありますし、実はこの私も、千恵利はんの意見に近いモノがあるのですが……まあ、これでも私は、一種の女性擁護論者でもありますからなぁ……♣」
「今、初めて聞いたけのー、そん言葉☠」
板堰は自分でも珍しいと思ったが、二島の初自己紹介に突っ込んだ。それに苦笑をしつつも、二島が板堰に返事を戻した。
「どうでしょう、板堰殿、ここは一時の休憩と考えて、彼女の願いを叶えて差し上げますかな? なにしろ女性からの懇願を受ければ、無碍に断ることもできまへんさかいに☂」
「……まあ、ええじゃろ✊ わしは構わんけのー♠」
二島とはこれまた対照的に、板堰はかなり大雑把というべきか、常に何事にも、それほどこだわらない性格を自認していた。
そのため何度も記しているが、たった今までの慎重な考えを、これまたあっさりと放棄。ここで敵が出たならば、それこそ力づくで叩きのめすのみ――そのような物騒極まりない考え方で、板堰は千恵利の望みを承諾してやった。
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