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『剣遊記番外編U』

第四章 魔剣VSアンデッド軍団!

     (2)

 橋の兵庫県側には、大阪府からの手配が、まだ回っていないようだった。そのためか川岸にある砦の衛兵も、簡単な通行証の提示を求めただけ。三人をやすやすと通過させてくれた。

 

 念のために申しておけば、砦を通過するときだけ、千恵利は剣の姿に戻って、板堰の腰のベルトにある、新しく買ったばかりの鞘(大阪の衛兵隊で没収されなかった)に収まっていた。なぜならこれも当然の策で、何百年も岩に突き刺さっていた彼女が、正式な通行証を所持しているはずがないからだ。

 

 それはともかく、砦からかなり離れた所で、二島がふたり(板堰と千恵利。もちろんとっくに元に戻っている)に向けて言った。

 

「ここまではとりあえず、うまく行ったようでんなぁ♡ しかし、油断はまだまだ禁物でっせ☠ たとえ手配がまだまだ言うたかて、ここは大阪からは目と鼻の先の隣りの県でございますからなぁ☎ まもなく大阪からの手配も回ってくることでございましょうや✉ そこで私の考えといたしましては、さらにこのまま兵庫県を横断し、西の岡山県まで足を伸ばしたほうが得策やと愚考いたすのですが✑✒ ご両名はいかがなものでございましょうや?」

 

 吟遊詩人のセリフには、妙に切羽詰まるモノがあった。しかし板堰はこれにも、特に異論はなかった。

 

「あんたがそう言うんじゃったら、わしゃあそんとおりにするつもりじゃけんのー✈ 今のわしには、大した判断材料がねえけんのぉ✍ ついでに言えば、岡山はわしの地元じゃ✌」

 

「私の愚行を尊重していただき、真に感謝をいたしまする♡」

 

 この期に及んでも、重々しく頭を下げる二島とは対照的。千恵利は板堰の左腕にしがみついて、完全にドン底である状況を楽しんでいた。

 

「ええわぁ♡ これであたしたちって、ほんまもんの逃亡者なんやわぁ♡♡」

 

 本物の逃亡者の緊張感など、彼女にはカケラの切れ端もなかった。


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