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『剣遊記番外編U』

第四章 魔剣VSアンデッド軍団!

     (1)

「この川さえ越えれば、もう大阪の衛兵隊も追ってきまへんでしょうな☀」

 

 二島がそう言って、右手人差し指で指し示した場所は、大阪府と兵庫県の間を流れる、県境の中島川。川に架かる橋の向こう側には、兵庫県尼崎{あまがさき}市の町並みが広がっていた。

 

「それじゃ、こないなとこで愚図愚図しとらへんで、さっさと県境越えたらええんやないか! あちらまで手配が回らんうちにやね!」

 

「ほう、千恵利はんも、わかってまんなぁ♡」

 

 などと、千恵利が妙に二島を急かすのには、次のような理由があった。それは大阪府と兵庫県の衛兵隊だけに限った話ではないのだが、とにかく全国に広がる共通の現象。官憲と称される人種というものは、同じ衛兵隊の看板を掲げておきながら、なぜか自治体が異なるだけでまるで別の国の組織のように、お互いの仲が険悪となってしまうもの。

 

 県境における事件の譲り合いや手柄の奪い合いなどは日常茶飯事であるし、情報の交換や協力体制の推進なども、彼らは夢にも考えようとはしない。

 

 もしもそれらを主張すれば、あっと言う間に『左遷』の憂き目を見るだろう。

 

 もちろん中央監督機関である衛兵庁が、このような由々しき状態を、見過ごしにできるはずもなし。そこで近年になってようやく――しかも全強制的に、各県衛兵隊間での交流を推し進めていた。しかし事態の改善と進展は、真にもって微々たる状況。長い年月に渡る因習は、凄まじいまでの岩盤的強固さなのだ。

 

 それでも千恵利が心配をしている理由は、昔どおりの犬猿状態であれば、県境を越えて、これにて逃亡は完了――なのだが、前述の事情で、現在はそうとは限らないからだ(微々とはいえ、事態は進んでいる)。従って、県境を越えて逃げるなら、早いに越したことはない――つまり千恵利はそのように言いたいわけ。

 

「千恵利は長年剣のままで岩に突き刺さっとったにしちゃあ、やけに世の中っちゅうのにくわしいんじゃのぉ♠」

 

 県境の中島川に架かる橋を渡りながら、板堰はしみじみと千恵利にささやいた。すると魔神の娘は、これにため口で返してきた。

 

「あに言っとんのや! 今はそれどころやあらへん、っちゅうとんのにぃ☠」

 

 ついでになぜか、鼻高々気味でもあったりした。

 

「まあ、何回も言うとんのやけど、あたしもしょっちゅう剣から人になって街に出て遊んどったからなぁ♡ そやさかい、そんくらいの世の中の流れやったら、たいがい知っとうわ♡ ジニーの情報収集力を甘く見んといてや♡」

 

「恐れ入ったもんじゃ✋ 大した魔神じゃのぉ、千恵利は☀」

 

 板堰も魔神娘にはお手上げ。三人は無事、県境突破に成功した。


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