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『剣遊記 閑話休題編V』

第一章  一角{ユニコーン}の新人さん。

     (9)

「あらっ? 孝治くんに友美ちゃんやない☛」

 

 一部(桂など)はすでに気がついてくれていたのだが、孝治と友美の突然である転倒に、真っ先でトンボメガネの田野浦真岐子{たのうら まきこ}が振り返ってくれた。彼女の場合下半身が大蛇のラミア{半蛇人}なので、クルリとうしろを顧みる行動が、実に速やか――と言えたりして。

 

 もちろん他に居並ぶ給仕係たち全員、前のめりに倒れている孝治と友美に、一斉注目してくれた。

 

 体裁の悪いこと、このうえなかった。

 

「や、やあ……今帰ったっちゃよ☻」

 

 孝治は場の空気を乱した自分を自覚した。そのついで、ごまかし気分の愛想笑いを浮かべ返してやった。

 

「へぇ〜〜、今帰ったとこばいねぇ☆ 今でーじなとこばってん、よかときに来たもんばい☆☆ きょう新しいわたしらの仲間が増えたとこばい しかもそん子がやねぇ……むぐっ!

 

 長いセリフが始まりそうになった真岐子の口を、うしろから誰かが両手で持って、ムギュッとふさいだ。

 

「ま、まあ……真岐子は話ば長いけ黙っとき☠ それよかなんしよんね、ふたりして入り口で寝てからに☠」

 

 真岐子の口をふさいだ犯人――やはり給仕係の香月登志子{かつき としこ}が、上からニヤニヤ目線で言ってくれた。しかし彼女に関しては、孝治にも言い返してやりたい実態があった。

 

「おまえこそ、大事な話の最中に、ペロペロキャンディー舐めながら参加するもんやなかっちゃよ よう店長も勝美さんも黙って見とうもんやねぇ

 

「登志子はええと♣ これがないと、それらしゅうなかとやけ♐」

 

 列の前のほうにいる由香が、なぜか登志子を庇っていた。果たしてこの店(未来亭)には、秩序という概念があるのだろうか。

 

ブラック企業は論外としてもやねぇ、もうちっと規律ばキッチリしたほうがええっち思うっちゃけどねぇ☢」

 

 長年に渡って務めている孝治にとっても、いまだに訳のわからない、未来亭の放任主義的企業風土と言うべきなのか。


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