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『剣遊記 閑話休題編V』

第一章  一角{ユニコーン}の新人さん。

     (10)

「孝治ぃ……それよか、わたしたちも綾香さんに挨拶するっちゃよ☀」

 

「そ、そうっちゃね☁」

 

 先に立ち上がった友美に急かされ、孝治も『よっこらしょ』と腰を上げた。

 

 見れば新人の綾香とやらが、まっすぐ孝治と友美を見つめ、ニコッと微笑んでいた。

 

 これだけで感じられる分析だと、彼女は実に愛想の良い素直で清純そうな、幼げな印象もある可愛い娘であった。ただ先ほどからわかっているとおり、彼女にはあまりにも大き過ぎる特徴があった。そのために孝治は、いまいち純真な気持ちで笑顔を返すことができず、やや引きつり気味気分の自分を自覚した。この気持ちは友美も、さらに存在が認知されていないであろう涼子も同様に違いない。

 

 その綾香がトコトコと、自分から孝治と友美(と涼子)の所まで歩いてきた。

 

服装はすでに支給され済みのようだ。どのような基準かはわからないけど、オレンジを基調とした未来亭の標準給仕服を着用していた(あとで理由を訊いてみたのだが、やっぱり特に意味はなし。ただ単に、オレンジ系が余っていたから――とのこと)。

 

 孝治はここで意を決し、思い切って綾香に尋ねてみた。

 

「あ、綾香ちゃんとか言うっちゃねぇ……まあ、よろしゅう頼むっちゃよ☂ お、おれはここで雇われ戦士ばやりよう鞘ヶ谷孝治と浅生友美っちゅうもんばい✑✒ それよかあーちゃんでええね? あーちゃんのぉ……そんおでこに生えちょうのは、いったいなんね?」

 

 もしかすると、本当の意味で『失礼』な質問かもしれなかった。それなのに孝治の問いに対し、綾香は明るく微笑みながらで、ごくふつうに答えてくれた。

 

「こっちこそよろしゅうお願いしますけね♐♡ それから、これ? ああ、ただの『角{つの}』やけぇ✌」


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