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『剣遊記閑話休題編V』

第一章  一角{ユニコーン}の新人さん。

     (7)

 特に大きな出来事(?)もなし。孝治、友美、涼子の三人は、無事北九州市にある未来亭に帰店した。

 

「うわっち?」

 

 孝治はここで不思議に思ったのだが、店は確かに営業中。今が午前とはいえ、そろそろお昼に近い時間。それなのに店内を走り回っているはずである給仕係たちの姿が、なぜかひとりも見当たらなかった。

 

 前述のとおり時刻は繁忙時に近い正午の前だが、店内のテーブルは、それこそ常連のおっさん連中ばかり。要するに花が無いのだ。

 

「いったい、なんがありよんやろっか?」

 

「わからんちゃ✄」

 

 孝治と友美は、顔を見合わせあった。

 

 もちろん常連客たちばかりなので、孝治のなじみである顔もあった。

 

「よう! 孝治っ! お帰りっちゃ☆」

 

 右手を上げて孝治に大きな声をかけた野郎は、盗賊が稼業である枝光正男{えだみつ まさお}。たぶん本業が暇になっているので、昼間っから酒を飲んでいるのだろう。その同じテーブルには、孝治の親友である和布利秀正{めかり ひでまさ}も同席していた。こいつはいつもどおりである、頭に白いタオルを巻いた風采で。

 

「秀正、なんか由香ちゃんらの顔ば見えんとやけど、なんかありよっと?」

 

 孝治は酒がかなり進んでいるような感じの正男を避け、まずは秀正に尋ねてみた。

 

「そげん大したことやなかみたいやけどね☻」

 

 秀正はコップに注がれているビールをチョビ飲みしながら、孝治に軽い調子で答えてくれた。そんなに深く酔っているようでもなく、さすがに昼間っからの深酒は避けているようであった。

 

「たった今、店に新人の給仕係さんが配属になったらしいけ、今厨房に全員集まって自己紹介ばさせようとこばい♐ おれもあとから見に行くつもりやけどね✐」

 

「へぇ、新人さんけぇ

 

 それなら特に珍しい話でもなか――と、孝治はやはり軽い気持ちになってうなずいた。とにかく新しいメンバーが増える展開は、それなりに吉報でもある話だし。

 

「ねえ、その新人の給仕係さん、今から見に行ってみんね✈」

 

 友美がここで、なんだかとてもうれしそうな顔になって、孝治の右腕を両手で軽く引っ張った。

 

「まあ、そうっちゃね

 

 孝治自身もまんざら悪くない気分なので、ここは友美の言うがままだった。

 

『あん! あたしも行くぅ☀』

 

 もともと好奇心の塊である涼子も、無論孝治と友美のあとに続いてきた。

 

 ふわふわと空中を漂いながらで。

 

 もしもこのとき、全裸で店内を徘徊している幽霊――涼子の姿が店の客たち(当然秀正と正男も含む)に見えていたとしたら――である。未来亭はそれこそ右に左に――それとも天と地に。まさに前後左右上下が引っ繰り返るような大騒ぎとなったであろう。

 

 そのような世紀末的展開も、なんだか見てみたい気がするけれど。


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