『剣遊記 閑話休題編V』 第一章 一角{ユニコーン}の新人さん。 (12) 「とにかく由香君たちもそれに孝治と友美君も、綾香君にしっかり仕事のノウハウを教えながら、しっかり一人前に育ててほしいがね。僕からもよろしく頼むがや」
これにて話を締めた感じ。店長らしく黒崎が、綾香の右肩を軽くポンと、左手で叩こうとした。ところがその振る舞いを、秘書の勝美が大声を出して止めさせた。
「店長! そがんことしたらいかんばい!」
「おっと、そうだったがや」
これも何度か説明を繰り返しているのだが、ピクシー族の声は非常に甲高い。それを熟知しているであろう黒崎でさえも、思わずビクッの感じ。その様子が孝治の瞳にも、ありありで見えていた。
「うわっちぃ〜〜、ビックリしたぁ〜〜⚠」
もちろん孝治も、今の勝美の声で、実は心臓バクバクの有様。そのような心境など知らないであろう勝美が、なんと黒崎に注意をしていた。
「店長、綾香さんに男が手ぇ掛けたら、がばいいかんとですよ⛔ 承知んとおり、ユニコーン族の角はふつうの男がさわったらポキッっち折れてもうて、うっかんげた(佐賀弁で『壊れた』)ことになるとですから⛑」
「おっと、ほんとにそうだった。僕としたことが、すまん、すまん」
これは真にもって珍しい光景。店長である黒崎氏が秘書の勝美に向け、右手を頭に載せてペコペコとしているのだから。
この事態にはむしろ、綾香のほうが恐縮しまくっている感じでいた。
「うわぁ〜〜、ビックリしたっちゃねぇ♋」
偶然だろうけど、孝治と同じ言い方で。ついでに涼子もささやいた。孝治と友美にしか聞こえない“つぶやき”で。
『黒崎店長って、いつか結婚したらきっと、奥さんの尻に敷かれるタイプっちゃね☻ 今の光景ば見てなんとのうやけど、そげな思いがしてきたっちゃよ✍』
「そうっちゃね✋」
「同感ばい✋」
友美と孝治も、異論ゼロで同意した。さらにそのついで、孝治はある事を思い出した。
「ユニコーンちゅうたら、美奈子さんたちが飼っとうペットのロバも、ユニコーンとの合いの子やったっちゃねぇ✍」
「あっと、そうやった✋」
『おったっちゃねぇ⛑』
友美と涼子もピンときたようだ。現在遠征で留守のようだが、未来亭に在籍している魔術師の天籟寺美奈子{てんらいじ みなこ}が荷物運搬用に所有しているロバも、実はユニコーン(もちろん馬族のユニコーン)との混血である話は、この界隈ではけっこう有名なのだ。現在飼育室にそのロバがいないようなので、主人といっしょに旅に出ているみたいであるが。
孝治は続けてささやいた。
「ロバと人間ばいっしょにしたら失礼やろうけど、美奈子さんらが帰ってきて綾香ちゃん……もうあーちゃんでええか♐ ご対面ばしたらどげなシチュエーションになるやろっかねぇ☻」
『あたしも見たかぁ✌』
「確かにそれって失礼っちゃよ✋」
孝治と涼子は友美からやんわりと注意をされたが、どうやら本心は、彼女も同じようである。
「でも、わたしが思うには、けっこう仲良うなりそうな気がするっちゃけどねぇ♪☺」
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