前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記 閑話休題編V』

第一章  一角{ユニコーン}の新人さん。

     (11)

 『あーちゃん』呼称の件は、これはこれで良いだろう。相手は可愛い女の子だし、本人がそのように呼ばれることを希望しているようなので(昔、ヤローの身分で『ちゃん』付け志望の者もいたが、秒殺で立ち消えになった話もあったっけ☠)。

 

「つのぉ?」

 

 呼称の件は問題無しとして、それよりも孝治は、自分の瞳が丸くなる思いになった。確かにあーちゃんこと綾香の言う『それ』は、まさに眉間から伸びている『角』そのもの。よく見れば右巻きにネジれた形状であり、長さはおよそ三十センチぐらいであろうか。

 

 孝治は恐る恐るの思いで訊いてみた。

 

「……お、おでこから生えとうと、やっぱし『角』っちゅうモンね?」

 

「あーね、そうなんだぁ☻」

 

 綾香は先ほどからまったく変わらない、ニッコリの微笑み顔で孝治に応えてくれた。

 

 続いて綾香に尋ねた者は、孝治よりも先に起き上がった友美であった(つまり孝治は、倒れたままの姿勢で尋ねていた)。

 

「もしかしてぇ……なんやけど、ユニコーン{一角馬}なんかと、なんか関係あるとやろっか? 失礼な言い方やったら、なんかゴメンちゃね♋」

 

「それは僕から説明するがや」

 

 このときになって――である。今までニコヤカな顔だけして黙って立っていた黒崎が、のこのこと孝治と友美と綾香の前まで歩いてきた。

 

「新人の紹介をするのは、本来なら店長の役目だがね。で、早速の解答なんだが、小森江綾香君は友美君の言うとおり、ユニコーン一族の一員なんだがや」

 

「「『ユニコーン一族の一員ですけぇ?』」」

 

 孝治と友美と、それに誰にも聞こえていないけど涼子の声が、見事にハモッた。その前で綾香が、これまたニコやかそうにしてうなずいていた。それから(涼子の存在は知らないであろうまま)黒崎の説明とやらが始まった。

 

「ユニコーンと言えば、まずは馬が浮かぶもんなんだが、専売特許はなにも馬族だけとは限ってにゃーがや。あまり知られてにゃーのだが、それこそ極小はネズミから特大はクジラに至るまで、哺乳類全般に一族が及んでるんだがね。もちろん人間も哺乳類の一員である以上、人間タイプのユニコーン一族がおったって、なーんも不思議はにゃーもんだがや」

 

「それって、おれ初めて聞いたっちゃよ♋ そげな話、いっちょも知らんかったばい

 

「そりゃそうだがや。僕だってたった今、この綾香君から聞いた話だがね」

 

 いまだにうまく立ち上がれず、下から仰ぎ見る格好の孝治に、黒崎があっさりと言葉を返してくれた。

 

『うわっ、ええころ加減な店長っちゃねぇ☠』

 

 自分の声が聞こえない設定をいいことに、涼子が黒崎向けで舌👅を出していた。

 

「と、言うわけだがや」

 

「どこが『と、言うわけ』なんね?」

 

 涼子はとにかく、黒崎による紹介は、だいたいこれにて終了――と言った感じ。

 

 孝治のツッコミには一切触れないままで。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system