『剣遊記15』 第七章 日本に向かって宜候{よーそろー}! (14) 「らぶちゃんもええ再就職先が見つかって良かったっちゃね♡」
ブリッジに戻った孝治は、そこにあるらぶちゃんの心臓部――水晶球に向かって、大きめの声で呼び掛けた。するとすぐに返事が戻ってきた。
「ホンマニナンモカモスマンノォ。ワシモコレデ一カラ出直シジャケエノォ」
らぶちゃんも満更ではないようである。孝治は続けて大声を張り上げた。
「それじゃ、日本に向かって宜候{よーそろー}っちゃね☀ 改めて出発の汽笛ばぁーーい!」
「ヨッシャアーーッ!」
ブオーーと船のどこからか、大きな汽笛が広い太平洋に響き渡った。本来この帆船のいったいどこに汽笛があったのか。それは置いて、ここは気分の問題であろうか。
それはともかく、もうあと残す期間も少ない帰りの航海であるが、船内に戻る寸前、孝治の見ている前で、千秋と涼子がなぜかパッタリと真正面からの鉢合わせになっていたりする。
『うふ♡』
「あはっ♡」
もはや姿を隠す必要がない涼子は(千秋限定だけど)、ためらうことなく彼女に右目ウインク😉などを送っていた。またこれに千秋も、几帳面に返事を戻したりもした。
「まあ、これから仲ようしような☺」
「あれぇ? 千秋ちゃん、誰さんにぃ挨拶してるんですかぁ?」
当然いっしょにいる千夏が不思議がっているけど、千秋は軽く返すだけだった。
「カモメはんにやで✌」
「ふ〜ん、カモメさんになんですかぁ☺ カモメさんもぉ、美奈子ちゃんのぉお使いさんでぇ、大変さんだったですうぅぅぅ☺✌」
とりあえず千夏は、簡単に納得をしてくれたようである。孝治もこれには、ほっとひと息の気持ちとなった。
「千秋ちゃんも、けっこう義理固いほうっちゃねぇ✊☺ 約束ばキッチリ守ってくれそうやけ♡♣」
そこへ今度は、友美が正面から声をかけてきた。
「で、それはええとして、わたしたちって今回はけっきょくばいねぇ☕」
「どげんしたとや、いきなり?」
孝治は再び、瞳が点の思いとなった。反対に友美は、思いっきり的に微笑んでいた。
「だってわたしたちって、話の始まりから終わりになってもずっと、ビキニ一枚のままなんやったけ☀👙 こげなことっち、前代未聞のストーリー展開っちゃよ⚠」
「そんとおりばいねぇ☠☻」
孝治も友美の言葉に同意した。そのついで、孝治と友美はそろって、船の後甲板の方向に瞳を向けた。そこには今回の冒険――と言うより明らかなバカンスの主役である美奈子が、ひとりで沈みゆく夕日の光景を眺め続けていた。
孝治と友美には背中を向けている格好で。無論その姿は、今や完全に論評の必要がなかった。
孝治は言った。
「美奈子さんもとうとう、あの真っ裸に近い超マイクロビキニんまんまで、初めっから終わりまで押し通しっぱなしやったけねぇ☻ 今度の大航海でおれたちけっきょく、なんの収穫があったとやろっか?」
友美が孝治のつぶやきに答えてくれた。
「きっとそれは……永久にわからんっち思うっちゃよ☻☞ わたしもわからんのやけ♪ でも答えの出ない旅っちゅうのも、たまにはええもんやねぇ☺」
これにも孝治はうなずいた。
「人間、そげん慌てて背伸びばして成長せんでもええ、っちゅうことやね☺」
「あたしはもっと、成長したかぁ〜〜☻☹」
「うわっち、やっぱここで秋恵ちゃんが出たばいね☻☺」
孝治と友美、ふたりそろってうしろに振り返ると、そこにはやはり、ピンクビキニの秋恵がいた。まさに孝治と友美と秋恵でもって、オレンジ、青、ピンクの三原色花盛りであった。
「秋恵ちゃんはまだ、なんか言いたそうやねぇ☺」
友美が声をかけると、秋恵はなんだか、ほっぺたをふくらませていた。
「あたし、今回の旅で美奈子先生とあたしの力と大人の差、充分に感じたけんねぇ♋⛔ あたしがもうちょっと大人になれるの、いったいいつなんやろっかぁ?」
孝治はくすっと噴き出しつつ、秋恵に言ってやった。
「さっきも言うたっちゃけど、人間そげん背伸びばせんでもよか、っちゅうことばい⛑☺」
ついでにこのとき、ついいつものよけいなひと言。
「で、秋恵ちゃんも友美も背伸びばしとうとやけど、こげんして並んだ胸の大きさから言うたら、順位はやっぱ、おれが一番みたいやねぇ☻」
夕日の水平線にカポーーンカポーーンと、ハリセンの大きな反響音が、二回木霊{こだま}した。
めでたし、めでたし。
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