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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (23)

「ほぉーーっほほほほっ! これでおわかりになったでしょ☞ これに懲りたら荷物ばまとめて秋田に帰りんしゃい☠☠」

 

 またもや由香が、自分で思い描いている勝手な想像図を、口から出して笑っていた。

 

どうやら由香は、隠し事がまったくできない性格であるらしい。裕志はそんな由香を見て、一歩引いた思いながらも、ひと言忠告してやった。

 

「あんねぇ……泰子ちゃんは確かに秋田出身やけど、あれでも東京の大学生やけね✍ やけん、そげな言い方はちょっとないっち思うっちゃけどぉ……☁」

 

 だけど、基本的に見て程度の低い忠告――というよりも、ただの修正――なので、これではまるで効き目はなし。

 

「なん言いよんね! こげんなったら東京も秋田もなかっちゃけね! とにかく田舎モンには絶対に負けられんだけやけ!」

 

「はいはい☹」

 

(秋田から見たら、九州かてけっこう田舎っち思うっちゃけどねぇ……☁)

 

 荒生田先輩のお伴をして、日本全国をけっこう渡り歩いている裕志には、各地方を軽んじる考え方はなかった。

 

 しかし、今の由香には通じない理論でもあろう。もはや説得をあきらめると、裕志は由香よりも一歩前に歩み出て、通路に向けて小声で呪文を唱えた。少しでも足を踏み入れたとたん、急にすべりやすくなってしまう、せこい仕掛けの魔術をかけるために。

 

「これで一応完了やけど、うまく足ばすべらせるかどうかは保証できんけね♐」

 

「そこは抜かりなかと♣」

 

 いまいち乗り気になれない裕志に向け、由香は自信たっぷりで付け加えた。それからすぐにうしろを向いて、由香が呼びかけた。

 

「朋子ぉ♡ こっちは準備OKばぁーーい♡」

 

「にゃあ♡」

 

「あっ!」

 

 由香から呼ばれ、廊下の隅から顔を出したモノ。それは一匹の三毛猫だった。それも、白地に黒と茶色の斑{まだら}模様。裕志はこの猫に見覚えがあった。

 

「朋子ちゃんやない☟ 朋子ちゃんがワーキャットなんは知っちょうけどぉ……どげんして今猫になっとうと?」

 

 給仕係の夜宮朋子{よみや ともこ}が三毛猫娘であるのは、未来亭の誰もが知っていた。だけど猫になるとしゃべれないので、代わりに由香が、変身の理由を説明してくれた。

 

「これも作戦の内なんやけ☆ 泰子がここば通ったとき、朋子に足元でウロチョロしてもろうて、泰子ん足ばもつれさせると✌ これぞ完ぺきな嫌がらせっちゃね♡」

 

「にゃあ♡」

 

 鬼のように微笑む由香に応えて、朋子も猫らしく、実に可愛らしい声でひと声鳴いた。朋子自身もすでに、やる気満々のようだった。

 

「未来亭で働いちょるみんなって……けっこう意地の悪いんがそろうとるんやねぇ〜〜☠」

 

 給仕係たちの新人いびりの有様に戦慄。今さらながらに、全身の震えが止まらない思いの裕志であった。


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