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『剣遊記13』

第一章  天才魔術師のお見合い。

     (10)

「行っちゃった……ばい……♋」

 

 早い話、いきなり全責任を押し付けられた感じ。孝治も友美も、もはや真空の思いで立ち尽くす以外に、今のところできることがなかった。

 

「あ、あのぉ……☁」

 

 この状況下で、秋恵が孝治に尋ねた。

 

「あ……あたしはどがんしたらよかとでしょうか?」

 

 当然の質問であった。しかし孝治にとっても、これは難問だった。

 

「……確かに疑問と不安は当たり前なんやろうけどぉ……おれもどげんしよっかねぇ?」

 

 そこへ孝治の右の耳に、こそこそと話しかける声。

 

『この娘{こ}、ホムンクルスなんでしょ☆ やけん、まずは話はそっから始めるったいね☆☆』

 

「うわっち……今までなんとか静かにしてくれとったけど、やっぱそうきたっちゃねぇ☻」

 

 孝治はすぐにピンときた。しかし今のこそこそ声は、実は孝治と友美にしか聞こえていなかったりする。今さら説明など必要もないが、声の主は未来亭に取り憑いている幽霊――曽根涼子{そね りょうこ}のものなのだ。つまり先ほどから記している『もうひとり』とは、ズバリ彼女を指している記述であったわけ。

 

『あたし、ホムンクルスって初めて見るっちゃけど、こげんして間近に見たかて、いっちょもふつうの女ん子と変わらんみたいっちゃねぇ☛ やけんいっそんこと、孝治と友美ちゃんではっきり訊いてくれんね☞』

 

「こりゃまたずいぶん、他力本願っちゅうもんやねぇ☻」

 

「あのぉ……いったいひとりで、なんば言いよっとですか?」

 

「うわっち!」

 

 孝治はつい涼子との話に入って、彼女の声が自分と友美にしか聞こえていないことを忘れていた。

 

 (こりゃまずかぁ〜〜♋)と思って、孝治は友美に顔を向けた。友美も渋そうな感じになって、孝治を『気ぃつけんね☢』の瞳で見つめていた。

 

「ごめんちゃ……♋」

 

 孝治は友美だけには、なぜか頭が上がらない習性。これがしっかりと身に沁み付いているのだ。

 

 なお、友美と涼子が赤の他人ながら実の双子のようにソックリさんであるという設定は、今回もストーリーには、あまり活かせそうもないか。


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