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『剣遊記W』

第一章  流れ着いた男たち。

     (6)

「あいつ、先輩みたいなケンタウロスと戦うのっち、初めてやなかろっか?」

 

 絶えず声援を送りつつも、試合をつぶさに見つめ続けている孝治。ここでわずかな感覚ではあるが、若園のあせりらしい様子を見て取った。

 

「実戦のときかて馬に乗った山賊と、何回か戦ったことがあるけねぇ……先輩は☝」

 

「それに比べて騎士さんは、命のやり取りの経験なし……っちゅうところやろっか☜☞」

 

 これらは今の所、単なる憶測にしか過ぎないであろう。しかし孝治と友美の指摘する所は、だいたいにおいて、的確なのかもしれなかった。

 

 一般に混同されている感があるが、戦士と騎士とは互いに戦闘を生業としながらも、その性格は大いに異なっていた。なぜなら戦士は、基本的に自由人である。そのため例外的に組織に属する場合でも、せいぜいが拘束力の強くないギルドへの参加や、一般商人に雇われる程度なのだ。

 

 しかし対照的に、王族の縁故者や貴族出身者がほとんどの割り合いを占める騎士の場合、王家や大貴族。または由緒ある名門の商人などの擁護下での行動しか行なわない。従って勝負事ともなれば、現在開催されている闘技大会などの他では、粗野な戦闘経験は戦争でも起こらない限り、日常的には有り得ない。

 

 孝治と友美が一致して考えているとおりだとすれば、月曜亭に雇われている騎士は闘技大会の常連ではあっても、肝心の実戦経験には乏しいかもしれないのだ。

 

 『グリフォン・キラー』の異名の由来までは、さすがの孝治と友美でも、知りようがないけれど。


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