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『剣遊記Y』

第六章 黒崎店長、帰店す。

     (8)

 『今回は痛み分けってことで、決着はまたいつかね♡☺ 永犬丸泰子♡』

 

 たったひと言だけ簡単に書かれている置き手紙を読んで、由香はなんだか、不可思議な気分に浸っていた。

 

 今朝、寮の自室のドアに、一枚の封筒が差し込まれていた。それを今になって開いてみてから、泰子からの置き手紙とわかったわけ。

 

「……やっぱり礼儀知らずやけねぇ……シルフって☻」

 

 などと口では毒づいてみても、由香の表情は周りの人から見れば、どことなく緩んで見えているに違いない。そんな由香に、うしろからいきなり、登志子が呼びかけた。

 

「由香ぁ! 歓迎会の準備ができたっちゃよぉ!」

 

「あっ! はいっ♡」

 

 由香が慌てて、エプロンの右ポケットに、泰子からの手紙を直し込む。ただしクシャクシャなどにしたりはせず、丁寧に折り畳んでから。

 

「どげんしたと? 由香」

 

 不思議そうな顔で覗き込む登志子に、由香が愛想笑いを浮かべて返した。

 

「な、なんでもなか……ただあたしも、少しは大人になったかなぁ〜〜っち、思うたもんやけね☺」

 

「変な由香やねぇ♋」

 

 登志子が言わずとも、由香の返事ははっきり言って、どこか変。だけど登志子は、少々首を右にひねっただけで、すぐに歓迎会の会場へ戻っていった。

 

 理由は簡単。登志子の興味の矛先は、由香がなにを考えているかよりも、これから始まる歓迎会で用意された、御馳走のほうにあったから。

 

 しかもなにを隠そう、きょうの歓迎会は剣豪板堰守が、未来亭への専属が決まったお祝いなのだ。


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