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『剣遊記Y』

第六章 黒崎店長、帰店す。

     (10)

 てなわけで、本日未来亭は臨時の休業。お店の酒場が、歓迎会の会場に変身していた。

 

 もちろん孝治と友美、ついでに涼子も出席。その涼子がつぶやいた。

 

『うらやましいっちゃねぇ〜〜☻ あたしかていつか、こげな風に歓迎されてみたいっちゃよぉ〜〜♪』

 

 そんな涼子に孝治と友美のふたりで、そっと優しく声をかけてやった。

 

「そうっちゃね☆ いつか機ば熟したときば見計らって、涼子んことばみんなに紹介しちゃるけね✌」

 

「そうそう、わたしも協力するっちゃけ✌」

 

 これで一応、励ましの言葉のつもり。しかし実は孝治も友美も、その日がいったいいつになることやら。まるで見当がつかないでいた。だから簡単に、涼子から突っ込まれるオチとなる。

 

『その『機』ってなんね? いつも言うことは適当なんやけねぇ✄』

 

「うわっち!」

 

 痛い所を見事に突かれ、孝治は顔が赤くなる思いがした。

 

 そんな三人(孝治、友美、涼子)の左隣りには、晴れて板堰の一番弟子と認められた大介もいた。その大介が秀正、正男の盗賊ふたりから、盛んにお祝いの言葉を頂いていた。

 

「いよっ! 念願達成、おめでとな☀」

 

「これでいよいよ、日本一の戦士への第一歩っちゅうわけっちゃね♐」

 

「ありがとう! 君たちに会わんかったら、おれにこげえ幸運はなかったっちゃ!」

 

 などと少々オーバー気味に感激している大介の初仕事は、すでに決まっていた。あしたから板堰に早速同行して、北陸石川県での、貴族のお家騒動仲裁に出向くのだ。

 

 斬った張ったがあるとは限らないが、武者修行には持ってこいの実技の舞台であろう。

 

 さらに会場には給仕長の熊手と、給仕係の女の子たち全員も参加。黒崎店長と秘書の勝美は遅れるとの連絡だが、このふたり以外で会場に顔の無い者は、荒生田と裕志、それに到津のトリオだけとなっていた。

 

「先生、すいません☂ 荒生田先輩ったら、中国から帰った到津さんから砂漠の古代都市遺跡の話ば聞いたとたん、裕志まで連れて旅に出ちゃったとです……ほんとやったらここにおらんといけんっち思うっちゃですけどぉ……☁」

 

 毎度の定番ながら、先輩の尻ぬぐいで孝治は頭を下げた。そんな孝治に板堰が、苦笑混じりで応じてくれた。

 

「ええんじゃ、旅と冒険こそ、戦士の本分じゃけんのぉ☆ 本心ではわしも、すぐー旅に出たい気分じゃ✈」

 

 これを孝治のうしろで聞いていた由香が、ちょっぴり切なげな顔をしていた。その理由は今回も恋人の裕志が先輩によって、強引に連れていかれた顛末に尽きるだろう。いつも威張り散らしの荒生田先輩から振り回され、由香と裕志にはゆっくりと、会話をする暇さえ与えられていないのだ。

 

「でも、ここにおらんのは荒生田先輩と裕志と到津さんだけやなかっちゃよ☞ 他にもいろいろおるやろ☛」

 

 秀正が横から話に加わると、孝治もそれに同意してうなずいた。

 

「そうそう、ここ未来亭は全員が完全にそろうっちゅうことがほとんどなかですっちゃよ☻ やけんそんときそんときで、仲間ば紹介しますっちゃね♥」

 

「ああ、楽しみしとーけーのぉ、鞘ヶ谷先輩★」

 

「うわっち! そ、そげなぁ! おれ……いや、ぼくんこと先輩やなんち……滅相もなかですよぉ!」

 

 それこそ想定外である、板堰からの思わぬ茶目っ気。孝治は顔面が再び赤くなった思いで、慌てて頭と両手を左右に振った。

 

 これに板堰も、満更でもない笑顔を浮かべていた。戦士稼業を始めて長い年月になるのだろうが、これほどたくさんの仲間ができた経験は、彼自身たぶん初めての出来事であろう。

 

 そんなこんなで、店長と秘書以外の出席者が、だいたいそろった感じ。正男が舞台の上に立ち、歓迎会開催の音頭をとった。

 

「では、我らが親愛なる未来亭に、剣豪板堰先生と千恵利ちゃん、さらに新人戦士大介くんの加入を祝って、乾ぱぁーーい🍻!」

 

「乾ぱぁーーい🍻!」

 

「おーーい! 誰か来ちゃってやぁーーっ!」

 

 そこへ祝いの宴席をぶち壊すかのごとくだった。砂津と井堀、ふたりの衛兵が、店内にダダダッと駆け込んできた。

 

 それもふたりそろって、ぜいぜいと息を切らしていた。


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