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『剣遊記W』

第四章 激! ワイバーン捕獲死闘編。

     (7)

「早よなんとかしちゃってやあーーっ! おれが食われちまうやろうがあーーっ!」

 

 孝治の断末魔的絶叫が合図となったらしい。崖の上から沢見の大声が、孝治とワイバーン双方の頭上に響き渡った。

 

「今やあーーっ! 岩を落とすんやあーーっ!」

 

 いったい、いつから主導権を握ったのだろうか。その声に応えて、今度は荒生田の咆哮も轟いた。

 

「ゆおーーっし! オレに任せえーーっ!」

 

 おのれが沢見の言いなりになっていることなど、まるで気づいていないようだ。とにかく荒生田が剣を頭上高く持ち上げ、足元の綱を、一撃でザクゥッと叩き斬った。

 

 これにて太めの綱が、見事に切断。同時に崖の上に鎮座している大岩が、まるでバランスを失ったかのように、グラグラと揺れ始めた。

 

 ここで遅まきながら、現場の状況を解説しよう。

 

 孝治を囮とし、丸太を立てて縛っている場所は、崖が少々凹{へこ}んでいるだけの、小さなくぼみのような地形であった。沢見はそこで、孝治にわざと目立つような白い服装を着させ、ワイバーンを誘ったわけである。従って第一段階としては、まずまずの成功と言えそうだ。

 

 続いてワイバーンが着地をした時点で、崖の上に用意していた岩を落下させる算段となっていた。だけども問題点がひとつ。ワイバーンが明らかに大き過ぎ。

 

「ほんなこつ大丈夫やろっか? 孝治がケガばしたら、どげんしよ……☁」

 

 小心者である裕志がためらう気になっているのも仕方のないような、極めて大雑把で危険な計画ともいえた。

 

 むしろケガだけで済んだら、これは超特大ヘビー級の大幸運と言えたりして。

 

 とにかく大岩は、グラグラガラガラガラガアッと、完全に安定性を失っていた。それがやがて、堰{せき}が切れたかのようにして、崖の下へとゴロゴロ崩れ始めた。

 

 ところがこの期に及んでも、ワイバーンはいまだおのれの身に重大な危機が差し迫っている状況に、まるで気づかない様子でいた。

 

 これは哀しい畜生の性{さが}なのか。


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