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『剣遊記\』

第一章  岸壁の給仕係。

     (5)

『そげん言うたらやねぇ、きのうは秀正くんと正男くんと孝治の三人で酒ば飲んで、帰って彩乃ちゃんから桂ちゃんの話ば聞いたときは、三人ともグデングデンのヘベレケ状態やったけねぇ〜〜☢☻』

 

 幽霊涼子は酒が飲めないので(まあ、当たり前か)、昨夜の出来事を、よく覚えているようだ。

 

『いつもの悪ガキ三人衆が集まって、酒場でクダば巻きよったけねぇ☠ あれじゃ人ん話ば覚えちょらんのも無理なかっちゃよ✄』

 

「それば言わんといてや☻☂」

 

 痛い所を涼子から突かれ、孝治は満面苦笑の思いとなった。

 

 話をくわしく述べれば、きのうの話、遺跡発掘仕事がひと段落着いたので北九州市に戻った盗賊ふたり組(和布刈秀正{めかり ひでまさ}と枝光正男{えだみつ まさお})と合流した孝治は、そのまま連れだって、夕方から街で飲み歩いていた。

 

 そんな三人がそろって未来亭へ帰り着いたとき、桂の彼氏帰店の話があっていたらしい。そのとき孝治は実際、酒のせいで記憶がうつろとなっていたようだ。だからそれを今になって思い出したとしても、話の細部は、やっぱり記憶に残っていなかった。その代わりに話を知っていた者は、酒こそ飲まなかったものの、孝治たちに付き合ってくれた友美と涼子のふたり。以上のような事情を照れ笑いでごまかし、孝治は知ったかぶりの口調で答えてやった。

 

「そうっちゃよねぇ〜〜☆ 桂の彼氏……そうそう、永二郎の野郎が帰ってくるんよねぇ☺ やけん、どおりでおらんはずっちゃよ……で、桂は今、どこ行っとうと?」

 

「桂やったら朝から港んほうに行っとうばい✈」

 

 孝治の問いに、今度は給仕係のリーダーである由香が答えてくれた。一応、開店のほうは落ち着いたようである。

 

「ちゃーっと店長の許しばもろうとうけ、桂ったら誰よりも早よう起きて、真っ先に港に飛んでったちゃよ✈✈ そろそろ船が着くころやけ、恋人同士、仲良う手ば取り合{お}うて帰ってくるんやなか♡☺」

 

「あらぁ? どげんして由香まで顔が赤こうなっとうと?」

 

「うわっち?」

 

 このとき友美が、敏感に由香の変化を察知したらしい。それに気づくタイミングの遅れた孝治であった。しかし確かに、由香の表情はなぜだかほんのりと、紅潮化が進行中であった。

 

「あっ……ほんなこつ♋」

 

「わかった! 桂の恋人が帰ってくるんで、由香も裕志くんに逢いたくなったっちゃね♡」

 

 さすがに友美は同年代の女の子同士。とにかく友美のズバリな指摘に、由香がコクリと微笑みながらでうなずいた。だけども内心では、ペロッと舌を出していたりもする。

 

(それもあるっちゃけどぉ……ほんとは他ん理由もあるっちゃよねぇ☺ でも、ここではこれで通しとこっと☻)

 

 蛇足だけれど、裕志とは由香の彼氏で、名前は牧山裕志{まきやま ひろし}。やはり未来亭住み込みの職業魔術師であり、現在は先輩の職業戦士――荒生田和志{あろうだ かずし}に連れられ、東北地方へ金塊探しの旅で遠征中。よって、今回の出番はなし。

 

 なお荒生田は孝治の先輩でもあるのだが、その性格はスケベのひと言。女性に性転換している孝治の天敵でもあった――よって、スケベ先輩が不在の現在、孝治の日々はとても平和で、実に静かなる日常を送れていた。

 

「裕志くんかて、すぐに帰ってくるっち思うっちゃよ♡ だって、荒生田先輩の宝探しが成功した試しはないっちゃけ

 

 友美が明るい笑顔で言って、右手で由香の背中を、ポンと軽く叩いた。その右隣りで孝治は、荒生田のニヤけたサングラス😎顔を思い浮かべながら、心底から次のように願っていた。

 

「裕志は帰っていいっちゃけど、先輩はずっと日本……やなか、世界の果てば一生うろうろ放浪してほしかっちゃねぇ〜〜☻☠」


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