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『剣遊記 番外編X』

第四章 超獣対怪獣、大阪湾大決闘!

     (2)

「やったっちゃあ☆ いよいよ始まるっちゃぞぉ!」

 

 この恐るべき光景を、遥か空の上からだった。シルバードラゴン――到津の背中の上から眼下とし、荒生田が興奮丸出しの様相で、これまた天に向かって叫びまくっていた。

 

 現在空中にいる荒生田一行は、まさに最高待遇の高級貴賓席――言わばVIP席に陣取る重要人物たちのような感じ。邪魔立てをする野暮な野郎は、誰ひとりいなかった。空の上だから、当たり前の話なのだが。

 

 そんな感じで始まった大怪獣同士の決闘場は、神戸市の中心にある、大きな森林公園。平常ならば、多くの市民たちの憩いの場なのであろう。だがここで、二頭の巨大生物が、中生代に棲息していた恐竜の死闘そのまま。激しい衝突を開始したわけである。

 

 体格では一応勝っている立場のバルキムであった。しかし実際の戦闘に慣れているほうは、どこからどのように贔屓目で見ても、やはり先に創造をされていたガストロキングに分がある感じ。両者が互いに凶器と言えそうな両腕でガップリ組み合うと、そのまま振り回すようにして怪獣が超獣を、公園の東側にある三階建てレンガ造りの洋館に、ドカンと思いっきりにブチ当てた。

 

 ガガアアアアアアアン クァァァァァァァァッと、大音響が響き渡る現場。破壊されたレンガの破片が、横倒しとなったバルキムの頭上に、ドガンガラガラガラと降り注いだ。

 

「おやげない(群馬弁で『可哀想』)っ! バルキムがやられようだがねぇ!」

 

 まさに修羅場と言えそうな現場の真上を飛行しながら、静香が高い悲鳴を上げた。しかしすぐ近くで到津の背中に乗っている荒生田は、これが実に呑気そのものの様子でいた。

 

「ゆおーーっし! やっぱしドラゴンば友達にしちょって、ほんなこつ正解っちゅうもんやったっちゃねぇ☆ こげんして大怪獣同士の大決闘ば、安全な場所から見られるんやけねぇ♡♐」

 

 てな調子で、完全に第三者の傍観気分でいるサングラス😎の戦士であった。しかしもちろん、バルキムへの指図を行なっている(つもりの)後輩魔術師へのあれこれ的口出しも、決して忘れてはいなかった。

 

「おらぁ! バルキムば押され気味になっちょうばい♨ 早いとこちゃんとした指示ばしてやらんねぇ☞☞」

 

「は、はい! ……すんましぇ〜ん……☂」

 

 この物語で何度も申しているとおり、裕志は本当に、高い場所が大の大の大苦手なのだ。しかしそれでも、眼下に望む市街地で、自分の分身ともいえるバルキムが戦っている場面――それも苦戦中――を目の当たりにすれば、もはや泣き言をほざいている場合ではなかった。

 

 裕志は高空でめまいのする思いに、なんとか少ない気力を振り搾って耐えていた。さらに耐えるついで、荒生田の背中越しから到津に向けて、か細い声で哀願した。

 

「あのぉ……到津さん……できるだけでけっこうですけ、バルキムにもっと近いとこまで行ってくれませんけぇ……ぼくの指示がよう聞こえんようですんでぇ……無理はせんでええですからぁ……☃」

 

「あいやあ☆ わかたあるね♡✈」

 

 裕志の頼みに応えて、すぐにシルバードラゴン――到津が翼を広げ、地上近くまでの急降下をしてくれた。それから大きな声が、たぶん聞こえるだろうぐらいの位置で低空飛行しながら、裕志はバルキムに向かって叫んだ。

 

「バルキムぅ! ただ殴ったり蹴ったりするだけじゃ駄目っちゃあ! もっと頭ば働かせて、使える武器ば使うっちゃよぉ!」

 

「それってなっから、実効性なんじゃねぇ?」

 

 到津の真横(左側)に並び、いっしょに急降下を決行した静香が、ため息混じりでつぶやいた。

 

「もっとそのぉ……いっからかんなこと言うてねえで、もうちっとんべ具体的なこと言ってあげなおやげないがねぇ♠ 例えばぁ……敵さの弱点さ、教えてあげるとかなんさぁ☞」

 

「そ、そげん言われたかてぇ……☁」

 

 『敵(ガストロキング)の弱点』うんぬんを言われたところで、裕志にそれを知る術など、あるはずはまったくないのである。


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